51.芸術の都 8
芸術の都での生活は続いている。
相変わらず俺は冒険者としての依頼を受けながらも、魔法具作りに精を出していた。この芸術の都に滞在している間に、身に着けられるだけの技術を身に着けたくて、必死だった。この異世界にやってきて、まだまだ俺は俺が一人で生きていけるだけの術は身につけられていない。
俺はそれを身に着けたくて、必死だった。
相変わらずサリエスさんのお世話になりっぱなしだけど。魔法具をプレゼントしたものの、まだまだサリエスさんにお世話になっているだけのものを返せられていない。与えられっぱなしというのは好きじゃない。サリエスさんとどれだけ一緒に居るかは不明だが、その間に返せるものをなんでも返していけたらと思っている。
そして芸術の都に滞在している間に、《土操手》の練習も続けている。土を動かす練習や、土を硬度を変化させる練習。それを芸術の街の外でたまに行っている。サリエスさんには「魔法の練習をする」と告げて、一人でせっせと練習だ。
なるべく誰にも見られないように気を付けて行っている。こうして旅をしていても《渡り人》と会うことはない。一斉に一クラス全てが異世界にやってくるのはそれだけ珍しいことで、俺たち以外の《渡り人》はあまりいないのだ。そういえば、クラスメイトたちがどうしているか噂にも聞かない。まぁ、今後関わっていくかどうかも怪しいクラスメイトたちの事はひとまず置いておく。
まずは折角手に入れた《ユニークスキル》のことをもっと知らなければならない。
時間があるうちに色々と試してみることにして、まずは火につよい土を意識してみた。硬さはそこまで硬くはしてない。ただ燃やしてみてどうなるだろうかという実験をしている。火をつける魔法具は買った。これからの生活に役立つし、何かあればこれは武器にも使える。火加減を考えながら焙ってみる。火の中で土は平然とそこにあった。ただ、やはりしばらくすれば崩れてしまったが。
これって、うまくできれば土を体に纏って、火から自分の身を守ったりも出来るかもしれない。本当に実用性があるように出来るのならば、土自体を体に纏って鎧のようにも出来るんだろうか。なんだかこれって地球で見た漫画に出てきた技みたいな感じな気がする……。
それにしてもやっぱりこういう操作はMPをごっそり持っていかれてしまう。もっと俺自身のレベルが上がっていけば、《土操手》を使いやすくなるだろうか。そんな希望を抱いて、今日も地道に練習を続ける。
というか、火に強く出来るってことは、寧ろ爆発する土の塊でもやろうと思えば作れる? などという考えにも至った。もしそれが出来るのならば、《ユニークスキル》の使い勝手の幅がまた広がっていくことだろう。
それを強く意識してやろうとした時、急に体がふらりとした。一気に抜けていった魔力……、そして気づけば気を失っていた。
目が覚めた時、俺ははっとなった。
慌てて体を起こす。体にはだるさが残っている。幸いにも、意識を失っていた間に魔物に襲われることはなかったらしい。運が良かった。魔物に無防備なところを襲われてしまったら俺の命は消えていただろう。
流石に、まだ俺には爆発する土の塊を作るほどのレベルはなかったらしい。でも一度こうして失敗して良かったと思う。もし命の危機にさらされたりしてしまっている時にこんなことを起こしてしまったら取り返しのつかないことになってしまうのだから。
その日は、そのまま宿へと戻った。
宿に戻るとサリエスさんに顔色が悪いと心配されてしまった。それに何でもないと口にして、俺は一先ず寝た。
細かい変化を幾つも土に加えるのは、もっとレベルを上げてからにしよう。俺はそう誓った。もしこれが出来るようになるのならばもっと俺は強くなれる。
芸術の都に滞在している間に爆発する土の塊でも作れないかと試行錯誤していた。だが、芸術の都を去ろうという話が出た段階でまだそれが出来なかった。
……思ったよりも難しかったのだ。少しずつレベルも上げようとしているが、中々上手くいかなかった。
本当に効率を重視するのならば、いろんなことを知っているサリエスさんに相談すべきなのかもしれない。ただやはり《渡り人》であることをサリエスさんに伝えようとは思わなかった。もっと何を捨ててでも強さを手に入れたいって貪欲さが俺にあればさっさと告げて、力になってもらうんだろうけど――、俺はそんな性格ではない。
残念なことに芸術の都に滞在している間にユニークスキルに関する目標は叶えることが出来なかったが、沢山の収穫があった。
次に訪れた街でも魔法具を作れそうなら作って、少しずつ技術を身に着けていこう。
そんな決意をしながら、数か月滞在した芸術の都を俺とサリエスさんは後にした。




