50.芸術の都 7
サリエスさんにプレゼントする魔法具の作成に乗り出している。プレゼントは結局腕輪にする事にした。肌に触れている面積が広いほど効果をなすようなのでその方がいいのではないかと思ったからだ。今、鉱石を腕輪の形に整えるために魔法具工房の施設を借りている。
此処にもお金がかかったため、合間合間で依頼にも出かけている。サリエスさんは《アイテムボックス》を無事に作ることが出来た俺を褒めてくれた。俺の都合で芸術の都に長くとどまっているのに、文句も言うことない。俺は自分の都合に合わせてもらっている自覚があるし、やはりプレゼントを丹精を込めて作らないとと思ってならない。
「手際がいいね。うまく魔法文字が刻めたら売り物になると思うよ」
以前、魔法具工房の依頼を受けた時に仲良くなった青年――ニュッドラが俺が腕輪の形に整えていくのを見て、そんな風に笑ってくれた。
こうして本場で働いている人がそう言ってくれると、少しだけ自信を持つ。とはいえ、あくまでうまくいけばだ。俺は地球でものづくりが好きでそれなりにやっていたとはいえ、異世界でのものづくりは初心者なのだ。慢心して大きな失敗をしたら取り返しのつかないことになる可能性がある。
全ての魔法具を、これを失敗したら死んでしまうといった認識で取り組むことにした。
何事も慣れてきてからが失敗が多いだろうし。
ちなみに、魔法文字を刻むのは一発で成功はしなかった。MPを回復させるための魔法文字を刻んだはずが逆に低下してしまう効果になってしまったり、そもそも魔法具としての効果は発揮しないただの腕輪になってしまったり――、そんな失敗をしながら何度目かで成功した。こう考えると、《アイテムボックス》が二度目で成功したのは本当に運が良かったのだと思う。
失敗作はこちらがお金を払って買い取ってもらえるらしい。そしてつぶして再利用できるとのことだったので買い取ってもらった。
サリエスさんはプレゼントを受け取ったらどんな反応を示すだろうか。……よくよく考えてみれば俺は異性にこうして自分が作ったものをあげた事がない。そう考えると、急に緊張が湧いてきた。そもそも長い時を生きているであろうサリエスさんは、俺が拙い技術で作ったこれを喜んでくれるだろうか。
やばいな、考えだしたら沼にはまったのか、どんどんそんな思いが湧いてくる。
でもまぁ、折角作ったのであげないという選択肢はない。
宿に戻ると、サリエスさんは出かけ先からまだ戻っていなかった。
なので、宿の食事を一人でとる。
甘たれのかかったお肉を口に含んで、ここしばらく取り組んでいた魔法具作りに思いをはせた。魔法具作りは神経を使ったけれども楽しかった。ただのバッグを作ったりするよりは大変だけど、その分出来上がったに達成感が大きい。まだまだ学び始めたばかりなので分からないことが多いけれども、魔法文字の組み合わせ次第ではどんなものだって作っていけるのかもしれない。そう思うと、興奮しないわけがなかった。
学べば学ぶほど、沢山の可能性を見いだせる。面白い魔法具だって作っていける。それって、ものづくりが好きな俺にとってみればどうしようもなく気持ちが昂ることだった。
冒険者として依頼を受けることに面白さはあるし、強くなれたという実感は嬉しい。とはいえ、何かを作る喜びの方が強い。将来的に自分の身を守れる強さが手に入ったら冒険者をやめて、魔法具作ってのんびり過ごしていけるというのが俺の理想だと思えた。まぁ、あくまで理想なので今後どうなるかは分からないけれど。
そういえば、魔法具作りに熱中して《土操手》に関しては練習をさぼってしまっていた。……レベルを上げて、魔法具にも活用できるようになったら、俺だけが作れる魔法具とかできるかもしれない。子供みたいな感情かもだけど、そういう魔法具が作れるのならば是非作りたい。
「ヒューガ、今日は先に帰っていたのね?」
「サリエスさん、おかえりなさい」
食事を取っていたら丁度、サリエスさんが戻ってきた。
サリエスさんは俺の向かいの席に座って、食事を注文する。
「ヒューガは今日は何をしていたの?」
「……えっと、サリエスさん、あの」
なんだろう、いざ、プレゼントを渡すとなると少しだけどもってしまった。
「これ、プレゼント」
「プレゼント? 私に?」
サリエスさんは驚いたように目を見開く。
「ああ。その、お世話になっているから。サリエスさんがいなかったら、俺はこんなに早く立ち上がれなかったと思うから。それに今回も魔法具を作るために芸術の都にもっと居たいという我儘を聞いてもらっているし……。本当に、ありがとう」
サリエスさんは年上だから、年下の面倒を見ようという気持ちで俺のことを助けてくれているのかもしれない。でもそうだったとしても、その行為で俺が助かっているのは事実だ。だからこそ、ちゃんとお礼を言おうと思った。
「まぁ、これは魔法具ね?」
「MPが回復するものだ。……といっても、そんなに回復量は多くないけど」
「そんなこと言う事ないわ。作り始めたばかりで一生懸命作ってくれたのでしょう? 私はとても嬉しいわ。ありがとう」
サリエスさんは花が咲くような笑みを浮かべてくれた。
渡したらどんな反応するだろうかと少し不安だったが、喜んでくれたようで良かったと思った。俺はサリエスさんにお世話になってばかりだから、時々こうやってサリエスさんのために何か作れたらなとも頭の片隅で思うのだった。まぁ、どれだけの期間、サリエスさんといるかもわからないけれど。