45.芸術の都 2
図書館で魔法具の本を読む事によって、少しは魔法具についての理解を深める事が出来た。
魔法は、呪文を口にする事で魔力を魔法という現象に変換するものだ。魔力の存在への意識や創造する事も重要だが、呪文というのは魔力を魔法という形に変換するのに大きな役割を持っている。だからこそ、無詠唱で魔法を使うのは難しい。呪文というのは、誰でも魔法を使えるようにするための補助のようなもののようだ。
魔法具というのは、魔法を発動するよりも難しい。魔法は呪文を口にして、ある程度の意識が持てれば発動する。しかし、魔法具は組み込みたい魔法に関する十分な理解が必要になる。呪文としての形ではなく、魔法文字で魔力回路を繋ぎ、その魔法具が組み込んだ魔法を発動する仕組みを作る必要があるとの事だった。例えば、武器を魔法具――ようするに魔剣とか、魔斧といった類の物にするためには炎を発するなどといった魔法文字が組み込む必要があるそうだ。複数の効能を組み込むためには、複雑な魔力回路を組み込んでいかなければならないという。何とも難しそうだ。でも難しそうだからと言って作る事を諦めるという選択肢はない。
魔法具職人というのは、そこまで数が居ないようだ。それならば魔法具をうまく作れるようになったら、ものづくりで生活が出来るようになるだろう。
《アイテムボックス》は時空魔法を組み込んである入れ物だ。その魔法文字や魔力回路は複雑であるため、あまり作れる人材がおらず、そのため値段が高いようだ。《アイテムボックス》を一番に作りたい。魔法文字の一覧は図書館に載っていたので、それらを見て、少し試してみようかと思っている。どれだけ時間がかかるかも分からないし、一発目から成功する事はまずないだろうが、試すだけ試してみたい。
「……魔法具を作ろうとするのはいいけれど、魔法具作りというのは危険も伴うわ。組み込んだつもりの魔法文字が別の効果を発揮したりもするの。特に時空魔法に関する魔法具だと、事故で指を数本欠落した人もいるはずよ。時空に指を持っていかれたとかもあるの。だから、魔法具作りをするのならば慎重にやった方がいいわ。失敗も経験の内だから失敗をするのはいいけれど、慎重にね」
サリエスさんに《アイテムボックス》作りに挑戦してみる、と告げたら何度も忠告をされた。
魔法具を作ってみたいと、興奮していた俺だが、その言葉ではっとなる。確かに俺は少し浮かれていたかもしれない。魔法具作りはそれだけ難しく、事故も多いのだ。
それもあって、サリエスさんは心配してくれているらしい。
それにしても魔法具作りは本当に大変そうだ。あの時計塔にはどれだけの複雑な魔力回路が組まれているのだろうか。そんな疑問もわいてきて仕方がなかった。
いつか魔法具を作れるようになれたら、他人の作った魔法具の分析とかもやってみたい。
……そういう事を考えて、不思議な気持ちになった。
ドワンにたどり着いた時は、人を初めてこの手で殺めて、将来なんて何もやりたい事について何も考えられないぐらいだった。俺がこうして前向きになれたのは、サリエスさんに出会ったからと言える。
何かお礼の品ぐらいは渡していたほうがいいかもしれない。今更かもしれないが、このアラサラーノに辿り着いて思い至った。
どうせ、長い期間共にいるわけではないだろう。俺はサリエスさんの事を利用しているし、サリエスさんも俺を面白いと興味の対象で見ているだけだ。とはいえ、たとえ、利用すると決めていたとしてもお礼をしないのとは話が別だ。お世話になっているのだから、お礼の品は渡すべきだろう。
となると、魔法具作りと並行してサリエスさんに何かしらのプレゼントをあげる事にしよう。俺よりも長生きしていて、ずっと多くの物を持っているように見えるサリエスさんが何を欲しがっているかは分からない。要らないと言われる可能性もあるだろうが、何もあげないよりは良いだろう。
そんな思考に陥ったので、翌日になってまた街をぶらぶらしてプレゼントになりそうなものを探す。それに加えて、図書館にももちろん行った。《アイテムボックス》を作るために必要なものや準備しなければならないことを改めて確認をしようと思ったのだ。
《アイテムボックス》を作るための鞄は素材から気を付ける必要もある。魔力を通しにくいものや通しやすいものなど布素材にもいろいろあるそうだ。竜などの高位の魔物の素材を使った《アイテムボックス》の方が性能が良いらしい。ただ、それは買う事はもちろん出来ないので、そのあたりは妥協する。——いつか、最高品質の素材を使ってみたいものだ。と、願望だけは湧いてくる。
ただ、妥協するにしても《アイテムボックス》を作るための布素材を買うだけでも手持ちのお金だけでは心もとなかった。
なので、サリエスさんへのプレゼントと《アイテムボックス》の材料を手に入れるためにも冒険者として依頼を受けて金銭を稼ぐ必要があった。