5.班
竜崎たち探索班が戻ってきてから、彼らが見た異世界について報告してくれた。
結構な距離を竜崎たちは探索したらしいが、森はまだまだ先まで続いていたらしい。俺たちが居るこの場所は、森の深い所のようだ。
異世界人にも遭遇することはなかったらしい。
あの不思議な声の主は、俺たちにこの世界で刺激となれといった。刺激となるためには生きていなければならないわけなのだが、あの神様的存在はこんな森中に戦闘も知らない平和な日本で過ごした高校生を放り込んで、生きていられると楽観視していたのだろうか。正直、何人かは森から出るまでに死亡でもしてしまうのではないかという気持ちにもなる。
魔物という存在が確かにおり、きっとそのほかにも俺たちでは想像できないような苦難が待ち構えているはずである。なんにせよ、生きていくためには生物を殺さなければならないし、普通の高校生の感覚のままではどうしようもない。
探索の中で何種類もの魔物を見つけたという話も聞いた。でかい足跡も見られたらしい。そういう魔物が居るかと思うと恐怖しかわかない。
俺も含めて皆が不安そうな顔をしていたからだろうか、
「森は続いているが、クラス全員で団結して頑張ればきっと外に出れるはずだ。まずは森を抜け出す事を第一と考えよう!」
竜崎は、クラスメイトたちの前でそんな風に宣言する。
こういう状況でも、竜崎は前だけを向いている。悪い考えなど想像していないといった様子だ。でも、そんな前向きな様子が、今はこんな状況に陥っているクラスメイトたちにとっては心強いだろう。
「みんなー、私も力になるから、一緒にがんばろうねー」
竜崎の隣で、こういう状況でも明るくそう言い放つのは野田千明である。竜崎グループの最後の一人だ。
明るい金色に染め上げられた髪を持つ少女。クオーターらしく、西洋風の見目を持っている美少女だ。
竜崎たちはこの集団のリーダーである。特にそれに不満はない。
生き抜くためには協力をしなければ難しい。クラスメイトたちをまとめ上げるカリスマ性を持っている竜崎たちの存在はありがたい。
「これからの方針についてだが――」
西園寺がそういって、口を開く。
竜崎グループの中で冷静なのは、西園寺と神崎ぐらいだろう。あとは結構、直感のままに動いている部分があるように思える。竜崎は正直何かあったらすぐに暴走しそうな部分があるから、西園寺たちが手綱を引いている。
「まず、役割分担をきちんとすべきだろう。今回の探索班と居残り班といったようなざっくりとしたものではなく、生き抜くための班分けが必要だ」
それはその通りだと思う。クラスメイトたちからも反対の声は上がらずに、全員のユニークスキルの内容を考慮したうえで班分けがされることになった。
班で行動するようにという事だ。それなりにバランスよく班わけすれば、それぞれ行動もしやすいだろう。
班わけが終わった時、もう夜になっていた。
異世界だからか、月は三つほどあった。しかも色が赤、黄、青である。信号機かと突っ込みたくなった。
さて、40人のクラスを五人ずつで8班にわけられたわけだが、俺の班はこんな感じになった。
・日向彪牙 ユニークスキル《土操手》
・神崎朱莉 ユニークスキル《水の衣》
・沢木代野 ユニークスキル《氷槍》
・中谷智 ユニークスキル《料理美味》
・秋田奈子 ユニークスキル《火炎弾》
料理を主にやってくれと言われた。俺と神崎と沢木には解体を頼みたいらしい。俺は解体を自分から学びに行っていたってことでここに入れられたようだ。
で、中谷は《料理美味》のユニークスキルを持っていたためここに、中谷は日本に居たころから料理が得意だったためここにいるらしい。あと、沢木と秋田が攻撃系のスキルだし、そこそこバランスは良い。
《火炎弾》はその名の通りで、レベルが1だからか一つしか出せないようだが、レベルを上げたら使い勝手がよさそうだ。
中谷は男なのに、戦闘系ユニークスキルではなく、《料理美味》などというスキルでちょっと落ち込んでいた。まぁ、役に立てるのは嬉しいとそういう事では喜んでいたが。
中谷のユニークスキルは最初からそこそこの効果があった。というか、レベル1でもおいしいから、レベルあがったらどうなるのだろうかといったレベルだ。
俺のユニークスキルもこれからレベルを上げていけば使い勝手がよくなっていくのだろうか。レベル1の段階では、今の所よくわからないスキルだが、異世界で生きていくのに役に立てばよいと思う。
今はクラスメイトたちは全員一緒に行動しているが、それぞれ道を見つけて後々分かれていくだろう。そう思えば、こうして集団活動をしているうちに、異世界で生きていけるだけの力を磨かなければならないと思う。
そんなことを考えながらも、俺は眠りについた。