42.芸術の都を目指して 2
次の馬車が来るまでの三日間、サリエスさんと俺はそれぞれ自由行動をすることが決まった。特にこの村で特別にやらなければならないことというのもなかったのだ。サリエスさんが言うにはこの村の傍には精霊がいるらしい。精霊と会話をしているらしい現場を目撃した事もある。ただ、やはり俺には精霊が見えないのでサリエスさんが一人で何かしているようにしか見えなかったが。
サリエスさんはこの村で精霊と会話をしたり、村の女性陣と仲良くなったりしている。コミュニケーション能力が俺とけた違いだ。俺も話しかけられたら村人と話したりはしているが、あれだけ積極的には話しかけようと思わない。正確な年は知らないけれど、やはりエルフで長生きしているからこそのコミュニケーション能力なのだろうか。
そんなことを考えながらも俺は《土操手》の練習を一人ですることにしていた。
もっとレベルを上げて、俺の理想の生活をするために。そのために、このユニークスキルの可能性を少しでも開拓したかった。《渡り人》で通常の人間よりも寿命は長いとはいえ、その寿命を全うする前に死んでしまう可能性だって高いのだ。即急に自分だけで生きていくための術を手に入れる必要がある。
幸いな事に俺の《土操手》で使う土は何処にでもある。だからこそ、どこでもレベルを上げる事が出来てよかった。もしこれがもっと別の何かを操るスキルだったらもっと大変だっただろう。
まず、土を固くしたり、柔らかくする。
それを繰り返す。どのくらいの強度まで変更できるのだろうかと、試してみる。硬さも調整できるのかと試してみたら、思念を載せてやってみたら出来た。とはいえ、MPもごっそり取られるので休憩しながらしか試せないが。それでもこうやって出来る事を少しずつ把握出来ているのは良い事だと思った。
《土操手》——土を操る手。
操るって、どこまでだろうか。操るって言葉の幅ってとても広いと思うのだ。
俺のこのスキルは何処まで操る事が出来るのだろうか。強度は操る事が出来た。ならば、他は?
例えば……そう、土の色とか。そういうものも変化出来たりするのだろうか。MPが回復したら試してみよう。MPが回復するまでの間は剣を振るって、そちらのスキルのレベルを上げる事にした。
剣を振るう。
こちらに転移した初期の頃よりはずっと剣を振るうのも慣れてきた。少し村から離れた位置だが、人里が近いのもあって魔物はあたりにいない。村には魔物除けの魔法具があるらしくて、その影響もあって村のすぐ傍にはあまり魔物はいないという話だった。
MPが回復したので、今度は土を固くすると同時に色を変化させることを心掛けた。
…気づいたらMPが空になっていた。
だけど、俺の手の中には色と強度が変化した土の塊が存在していた。そんなにMPを使わないのではないかと思って強度も色も変化させたのが間違いだった。土の色まで変えようと思えば本当に変えられると思わなかったからもあるけれど、もっと慎重に事を運ばないと。もしMPが0の状況で魔物に襲われたらたまったものではない。
ひとまず、二つ同時に変化を与える事が出来る事は分かった。強度を変えたり、色を変えたりすることが出来る。と言う事は、これは偽装したりも出来るのかもしれない。例えば、土を他の何かに見せるとか。それで敵を欺いて、おびき寄せた所を他の手段で倒す事も出来るだろう。MPが上がれば、どうにでも出来る気もする。
となるとやっぱり《土操手》のレベルを上げることは大事だ。
レベルを上げれば上げるほど、あらゆる可能性が広がる。
そう思うと、柄にもなく興奮してしまう。
このユニークスキルは他に何が出来るだろうか。どんな可能性を秘めているだろうか。それを考えることは楽しい。
《土操手》を使ったり、剣を振るったりした後は一旦村へと戻った。
村へと戻った時、サリエスさんは村の女性たちと仲良くお喋りをしていた。俺の姿を見て「おかえり」と何をしていたか一切聞かずに笑みを浮かべていた。「ただいま」とだけ口にして、俺は村長の家へと戻る。椅子に座って、《ユニークスキル》についてまとめたノートを取り出し、今回分かったことを記載した。
村長宅の子供に見られて、「なんの文字ー?」と聞かれてしまったが、ごまかしておいた。
ノートに付け加えた事は、《土操手》の可能性についてだ。まだまだ未知数だが、もっと出来る事があると思われる。だからこそ、その可能性をどんどん広げていきたい。
そんな思いから馬車が来るまでの間、俺はほとんど一人で《土操手》の練習をしていた。とはいえ、お世話になるので村長宅で生活のお手伝いはしていたが。
その間、サリエスさんが何をしていたか俺は聞かなかった。そしてサリエスさんも、俺に一切聞かなかった。