40.新たなる場所へ
「そろそろ違う場所に拠点を移すのはどうかと思うのだけど、ヒューガはどう思うかしら?」
気づけば、この鍛冶の街ドワンに到着してから半年以上経過していた。その間、俺はサリエスさんとパーティーを組んだままだった。
この街で過ごしている間に、俺は鍛冶の技術を少しずつ学ぶ事が出来た。流石に他のものづくりの分野にまでは鍛冶技術ほど手を出せなかったが、木工や細工職人の元にも行き、少し学ぶことも出来た。ワルザさんの紹介という形で職人たちの元へ赴けば、快く教えてくれたのだ。もし紹介でなければ教えてくれなかったであろう気難しい人も中には居た。それを思うとワルザさんに感謝しかない。
この街にたどり着いた時は、初めて人を殺してしまったというのもあって俺はこれからどのように生きていけばいいのだろうかと絶望していた。将来への希望も皆無だった。だけど、俺は今、様々な事を作る喜びと充実感に満たされている。
「……俺は構わない。まだまだ学びたい事はあるけれど、他の街にも興味があるから。というか……サリエスさん」
「何?」
「次の街でも俺とパーティーを組み続けるつもりなのか? サリエスさんならもっとランクの高い冒険者とパーティーを組む事が出来ると思うんだが」
サリエスさんのランクを結局、半年も一緒に居ながらきちんとは聞いていない。それは俺自身に聞かれたくない事が多く、こちらが聞いてしまったら俺の情報も開示しなければならないのではないかという気持ちもあったから。それにサリエスさんのランクを把握していなくても特に問題がなかったからというのもある。
まだ俺の冒険者としてのランクはDだ。もうすぐCに上がる事が出来ると冒険者ギルドで言われたけれど、CからBに上がるのは大変な事らしい。俺のように冒険者業だけではなくものづくりまでしていれば余計にランクは上がりづらいのは当然だった。
そもそも俺が順調に依頼をこなせているのは俺の実力というより、サリエスさんとパーティーを組んでいるからというのもある。だからこそ慢心することなく、サリエスさんに感謝をしなければならないと改めて思った。
「まぁ、もっとランクの高い冒険者とパーティーを組む事は出来るけれど、まだヒューガは面白くなりそうだもの。私の時間が無駄だとかそういう事は考えなくていいわ。だって私の時間は人間のヒューガでは考えられないぐらい長いもの」
人間とエルフ。
こうして話していると、寿命が違うなどと実感が中々わかないけれど確かに寿命の差があるのだ。俺は《渡り人》だから寿命を全うできれば、人より長く生きる事が出来るけれどもそれをサリエスさんは知らないから、俺が死ぬまで俺に付き合ったとしても数十年とかそういう風に考えているのかもしれない。
確かにエルフからしてみれば、俺が死ぬまでの時間は一瞬なのかもしれない。寿命を全うせずに翌日にでも何らかの要因で死んでしまう可能性もあるわけだし。俺は寿命を全うして死ぬつもりだし、そうなると結構な長い時間になるけれども——、少なくとも俺がもっと力をつけるまではサリエスさんとパーティーを組んでいた方が俺にとっては好都合だ。そんな理由も含めて《渡り人》であることを言わない俺であった。
……色々秘密にしてしまっている事実には、サリエスさんとの距離が近づくたびに思う事はあるけれども自分のためにも仕方がない。
「そうか。なら……一緒に居てもらえると俺は助かる。サリエスさんが居た方が動きやすい」
「そのつもりよ。それでどこに行きたい? 色々とやっぱり作りたいというのならば芸術の都にでもいってみる?」
「芸術の都?」
「ええ。画家や音楽家などが集まっている都があるのよ。結構距離は遠いけれど、ヒューガは色々なものを作るのが好きなのでしょう? そこにいったら上手くいけば楽器の作り方とかも習えるかもしれないわよ?」
芸術の都、と聞いて心が躍った。
何かを作るのが好きな俺は、芸術作品も好きだった。絵を描くのも好きだった。この世界に来てゆっくり絵を描くなんて出来ていないけれど、絵を描くのが好きな気持ちはまだある。それにこの世界では前世のようにインターネットを通じて良い作品をみたりとかは出来ないのだ。良い作品をこの目で見たいという願望も湧いてきた。
サリエスさんは俺が目を輝かせたのを見て、笑っている。
サリエスさんは俺が興味を持つのを知った上で、芸術の都に行く事を提案したのだろう。何だか掌で転がされている気持ちになって、少し複雑な気持ちにはなる。でも悪意がないのは分かるし、サリエスさんはただ俺が喜ぶだろうから提案しただけだろうから特に何も言わない。
「是非、芸術の都に行きたい」
「そういうと思ったわ。丁度、そちら方面への配送の依頼があるからそれを受けましょう」
サリエスさんはそう宣言すると、冒険者ギルドへと向かってさっさと依頼を受けてきた。
それから数日後、俺達は半年過ごしたドワンの街を後にした。