38.ユニークスキル 3
サリエスさんは俺が《渡り人》だとは知らない。俺は言うつもりは今の所ない。だからこそ、俺のユニークスキルである《土操手》はサリエスさんの前ではあまり使わないようにしている。使うにしても分かりにくいように使っている。
サリエスさんは聡明な人だから、俺が《土操手》をわかりやすく使ったらそれが魔法ではない事を悟られてしまうだろう。だからこそ、サリエスさんの前ではなるべく使わない。サリエスさんを信用していないわけではないけれども、俺は自分が《渡り人》であることをサリエスさんに言うのは躊躇われた。
俺が《渡り人》だという事実は知られたらややこしい事になるのだ。そう考えると騎士として、《渡り人》として残ったクラスメイト達は大変なのだろうと思う。《渡り人》で《ユニークスキル》を所持している事を知られてしまっている状況から始まっているのだから。
《渡り人》として知られている段階で、此処で生きていくのならばその分優しくされたり、配慮されたりするメリットはあるかもしれない。でも知られているからこそ、利用されてしまうデメリットも大きいのだ。そう考えると俺はやはり、《渡り人》であるという事をなるべく隠して生きていきたいと思った。
その日は、サリエスさんが別の用事があるという事で、一人で森に来ていた。一人なのだから無理しないようにというサリエスさんの言葉に頷いて、森に入る。街からすぐそばに広がる森。奥の方には一人で行かない。一人で奥に行くともしかしたら死んでしまう可能性もある。自然の中というものは何が起こるか分からないものなのだから。
そんなわけで、森の浅い部分に一人できていた俺は《ユニークスキル》の実験をしていた。
《土操手》。
土を操る俺のユニークスキル。
《土操手》はレベル6。
この《土操手》はサリエスさんの前では使えないから、レベルはあげられていない。こういうタイミングでレベルをあげないと、レベルは上げられないだろう。そう思うから、今日はひたすら《土操手》の実験をする事を決めている。
まずは、以前に土を硬くしようと思った時に実際に硬くなった事を踏まえて、土の塊の硬さを変えてみる。
硬くなるように、硬くなるようにと念じながらやれば、MPが半分以上取られた。どうして硬くすることでそこまで減るのだろうか。――そのあたりも検証していけば上手くわかるようになっていくだろうか。
半分以上MPを使うほどのものだろうかと考えてみるけれど、正直そうとは感じられない。確かに土の硬さを変えたら、色々と使い勝手があるかもしれないけれど、これだけ小さな土を硬くするだけでもMPをそれなりに使うとはどういうことだろうか。
そう考えながらも、休み休みMPを回復させながら土の強度を変える実験を続ける。MPをかなり使うから何度も出来るわけではないけれど、これも《土操手》を扱う練習にはなるし、レベル上げにもなる。それに出来る事の検証にもなるし。
土を動かすことも何度も行った。まだまだMPが少なくて連続して使う事は出来ないけれど、俺自身のレベルが上がってMPをあげる事が出来ればもっと色々な事が出来るようになるだろう。
《土操手》で他に何が出来るだろうか。
そう考えるけれど、中々良いものが思いつかない。サリエスさんの前ではわかりにくいように使うぐらいしか出来ないし。
……サリエスさんに《土操手》の事をきちんと説明したら、色々と《土操手》の使い方を一緒に考えてくれる気もするけれど、やはり《渡り人》であることを知られたくないと思う。
「……分からん」
考えても、使い道の発想が湧いてこないのでひたすら土を硬くしたり柔らかくしたり、そして動かしたりを繰り返ししていた。休みながらだからそこまで数はこなせていないけれども、夕方になる頃には俺は達成感に満ちていた。思えば、これだけずっと《土操手》だけを使い続けるという事も今までしていなかった。これだけやって、何か新しい発見などがあるわけではないのは残念だが、これだけやったという事は何かしらの結果にはなると期待している。
そうして、帰ろうとした時、俺は一つの事に気づいた。
「……まだ、硬い?」
随分前に硬くした土の塊が、まだ硬かった。
その事実に驚いた。もうとっくに効能を失っているものとばかり、勝手に思い込んでいたから。
「……長い間継続するからこそ、MPの消費が激しい?」
そのことに思い至った俺は自分が硬くしたり柔らかくして土の小さな塊を全て袋に詰め込んで、持ち帰る事にした。
結果として、その土の塊は翌日になってもずっとその強度を保ったままだった。