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36.自分の武器

 鍛冶の街ドワンに到着して、それなりに時間が経過している。

 鍛冶をもっと習いたいからこの街にとどまりたいといった俺にサリエスさんは付き合うと言ってくれた。それで、この異世界に来てはじめて充実しているといえるような日常を送っている。

 何より、ものづくりが出来る事が本当に楽しくて仕方がなかった。何でもいいから何かしら作れること。自分の手で何かを生み出せること。俺はその事をこの世界にやってきてからもずっとやりたかったのだ。

 ただ、この異世界は危険だから先に戦う術や生活する術を身につけなければならないと必死でものづくりをこれまでできなかったというだけなのだ。

 俺を《渡り人》だと知らない人たちしかいないこの街になじんできていることを思うと少しだけ嬉しくも感じた。

 一人で過ごすのが好きだという俺の性格をサリエスさんが把握してくれていて、パーティーを組んでいるとはいっても適切な距離で接してくれているからというのもあるだろう。

 俺は冒険者として過ごすのと、ものづくりをするのを交互にしている。そんな俺にサリエスさんは何も言わずに、寧ろ俺よりも長生きしているエルフだからかほほえましい目で見られて少しだけ恥ずかしい。

 俺がものづくりをしている間、サリエスさんが何をしているかはさっぱり分からないが、サリエスさんも一人で過ごすことに抵抗がないようで色々と動いているようだ。冒険者として動いたり、町の中を散策したり。街の中で美味しいお店があると教えてくれたりもする。

「ヒューガも鍛冶仕事が板についてきたな」

「本当ですか?」

「ああ。何か作りたいものとかあったら作ってみるか? もちろん、材料は自分で集めてもらうことになるが」

「そうですね……」

 そういいながら俺は自分が一番何を作りたいと思うか、今の自分に何が必要なのか考える。

 何でもいいから作ってみたいという欲求があって、色々作らせてもらいながらならっているけれどあえて自分が作ってみたいものといえば……そう考えて一つのものが思い浮かんだ。

「俺は……自分の武器を作りたいです」

「自分の武器を? そうか、ヒューガは冒険者だもんな」

「はい。俺自身の手で自分の武器を作りたいです。いつか、買うではなく、自分の作った武器で戦っていけるようにしたいから」

 作れるものはなんでも自分で作りたい。

 自分の武器も、自分の防具も、自分の道具も——全て出来たら何れ自分で作っていけるようになりたい。そして目指すは、全てを自分で作って人と関わらずにモノづくりを出来る環境をつくることなのだから。

 ワルザさんと一緒に俺はどのような素材でどのような武器を作るべきかという談義に入る。その話し合いからして、俺にとっては楽しく充実したものだった。

 自分で素材を調達し、自分で作るというのでお金はあまりかからない。が、ひとまず初めて作る自分の武器という事で銀素材で作ってみることになった。

 銀は鉱山にいった時に手に入れていたのもあったので余分に持っている。それを使って自分の武器を作る。どんな風なものにしようかと考えるだけで本当に楽しいものだ。武器の形は無難に長剣を作ることにした。これで一流の鍛冶師になると色々な効果をつけれたりもするらしいが、初心者の俺はひとまずただの武器しか作れない。いつか、そういう色々な効果をつけれるようになれればきっともっとものづくりが楽しくなるだろう。

 まず一本作ってみようとやってみる。

 ……何だか上手くできなかった。

 次にもう一本作ってみる。

 これも、上手くいかない。

 何度もやり直して、だけど満足の行くものがその日は出来ずに、翌日も自分の武器を作るために鍛冶場に顔を出した。

 そのうち、余分にもっていたはずの銀素材もなくなって、また鉱山に顔を出した。

 鉱山で手に入れた銀で、また鍛冶をする。

 それを何度も何度も繰り返して、ようやく自分の満足が行くような自身の剣が完成した。

 ……一本の長剣を鍛冶するだけでもこんなにも時間がかかってしまう事を思うと、鍛冶師として鍛冶を仕事にしているワルザさんたちの事を本当に尊敬する。何かを生み出せる人というのは、それだけで凄いとものづくりに関わっているからこそ余計に実感する。

 失敗した分の長剣は、一度とかしてまた別のものに再利用するとの話だった。

 それから宿へと戻る。

 サリエスさんに武器を見せたら「満足できるものが出来てよかったわね」と笑みを零していた。

 俺は自分の借りている宿の一室に戻って、自分のために作った武器を眺める。たった一振りの長剣。俺のつたない鍛冶の技術で生み出されたそれは決して良いものであるとは断言はできない。だけれども、自分の手で武器を作れた事実に俺の心は満たされていた。

 思わず、自分の作った武器を眺めてニヤニヤしてしまうぐらいには俺の心は高ぶっていた。




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