3.解体
倒したウサギは食料とすることになった。探索班はまだ戻ってきていないし、食事をとらなければどうしようもないという結論に至ったからだ。
しかし問題はある。解体の作業だ。俺はウサギの事を殺すのでさえ少し躊躇いが生じたのだ。俺は細かい手作業は好きだが、動物の解体なんてしたことはない。
それを思うと、改めて異世界に来た事を思って少し動揺した。この世界で生きていくためには、そういう技術も身に着けた方が生きやすいだろう。生き残るためには、生きていくためには、俺には、いや、俺たち地球から転移した組は色々足りないものが多すぎる。
ウサギの解体は、沢木と神崎が行った。驚いたことにこの二人、動物の解体を経験したことがあったらしい。俺を含む男たちがウサギを解体することにビビる中、二人は平然と解体をすすめていく。男たちよりも頼もしい女子二人であった。まぁ、他の女子生徒たちは、ウサギの死体の段階で悲鳴あげてたけれどさ。というか、やっぱり竜崎グループは非凡だと思う。なんで、あいつらそろいもそろって色々出来るのだろうか。
まずはじめに血抜きが行われた。頸部の動脈を切り付け、血を流させる。
それを見て口から何かが出てきそうになった。気持ちが悪い。周りに居た男子生徒たちも、大体が見たくないという風に背を向けて耳をふさいでいる。
ただ俺は気持ち悪いというのはもちろんあったわけだけれど、女子にばかりやらせてみても居られないとかいうのもかっこ悪いし、この世界で生きていくためにはそういう技術を学んでいるべきだと思ったから視線を逸らさないように気を付けた。
次に皮剥ぎが行われていく。特に手こずる様子がないが、地球のウサギとこの世界のウサギは大体体の構造までも同じなのだろうか? そういうことまで考えなければならないと思うとうんざりした。
この世界にやってきて一日も経過していないのに、地球との違いが次々と露見していく。異世界に来たことも理解しているし、ただ刺激物として呼ばれた俺たちは簡単に死ぬだろう。それを思うと、不安になってきた。
一人で異世界に来るではなく、クラスメイトとこれたのはその点良かったかもしれない。周りに似た境遇の存在が居て、右も左もわからないこの世界でともに助け合える。大勢で行動するのは苦手だけれど、一人より、大勢の方が生きていられる確率が上がるだろうから、その点はとりあえずはよしとしよう。
そんな事を考えながらも目の前で解体は進められていく。
内臓が引き抜かれていく。それを見て、少し吐いた。気分が悪い。
テキパキと捌いていく二人は顔色一つ変えない。あの二人は地球でどんな生活をしていたのだろうかと正直疑問である。
「……俺もやってみていいか」
慣れたかった俺は、沢木と神崎が何匹か捌いたのを見てから近づいてそういった。
二人は驚いた表情を浮かべた。
「顔色悪いけど、やるの?」
「こういうの慣れてた方が後から楽そうだから」
「ふーん、良い心意気だな。よし、私のナイフを貸してやろう」
沢木はにこっと微笑んでそういった。というか、今更な疑問だが、何でこいつナイフ持ってんだ。
「ナイフ何処から持ってきた?」
「ふふん、私は常に何かあった時のために最低限のものは持っているんだよ」
「……何かあった時のためにって」
「光と一緒に居ると色々巻き込まれるからなー」
そういうことらしい。もしかして竜崎と一緒に過ごしていて遭難でもしたことがあるのだろうか。正直普通に過ごしていればそういう状況にはならない。竜崎と共にいてナイフが必要な状況にでもなったのだろうか。
謎過ぎる。でもそういう色々なことに巻き込まれた経験があるからこそ、竜崎グループは今回の異世界転移においてリーダーシップをとれるのだろう。
それから沢木と神崎に教わりながらウサギの解体をした。最初の解体は全然うまくいかなくて、正直食べられる部分が少なくなった。もったいない事をしてしまった。
解体が終わって、ウサギの肉が積み上げられる。それで料理が作られた。
ウサギの肉を焼いただけのもの。でもそれだけでも十分だった。水は近くからくんできた。
解体は気持ち悪かった。正直ウサギの肉を見て、食欲はわかなかった。でもおなかはすくもので、少しずつ食べた。こういう事にもこの異世界で生活をしていけば慣れていくのだろうか。俺も、そして周りで何とも言えない表情で食事を口にするクラスメイトたちも。
腹を満たした頃に、偵察組がかえってきた。
先ほど俺たちが食べたウサギとはくらべものにならないぐらいの巨大な鹿のような魔物を持ってきていた。あれを狩ったとか驚きだ。
ただ竜崎の《光の剣》でぶった切ったのか、食べられる部分が小さくなっていたらしく沢木に竜崎は怒られていた。
沢木からウサギ軍団の襲撃について聞いた竜崎は、「それに備えなきゃな」と言い放つのであった。
本当に不思議なのだが、竜崎が全然ネガティブになっていないことである。なんであいつはあんなにポジティブでいられるのか。羨ましい限りだ。