33.欲求
鍛冶。
それをこの世界で初めて行った。ものづくりをこの世界に来て初めてやって、俺はやはり、何かを作ったりすることが好きなのだと改めて感じた。何かを一つ一つ作ること。自分の手で生み出すこと。それは俺にとって、最も楽しいと思う事だった。地球に居た時からそうだった。黙々とただ作り続ける事が好きだった。何でもいいから作ると、とても満足した気持ちが俺を満たしていた。
今は、生きていくために冒険者をしている。冒険者として世界を見て回ろうとしている。力を手に入れて、この世界で生きていくために前に進んでいる。―――だけど、ずっと冒険者を続けて戦いの中に身を投じようとは思えない。何れ、物作りをしながらのんびりと暮らせる生活をしたい。改めて感じたのはそんなことである。
「ヒューガ、嬉しそうね」
ものづくりが楽しかった。そう思ってならない気持ちが俺の顔に出ていたのかサリエスさんにそんな風に笑われた。
「本当にものづくりが好きなのね」
「うん」
俺は、物を作る事が好きだ。何かを生み出すとわくわくする。興奮してならない。
「今日はどうする? 私は討伐依頼を受けたらどうかと思うのだけど」
「俺も、受けたい」
鍛冶をするのは好きだけど、生きていくためにも冒険者としてもっと戦えるようにもなりたい。それに、物づくりのための素材を自分で手に入れられるようになったらいずれ色々な物を作るに便利だと思えるから。
素材を傷つけずに手に入る方法をもっと学びたい。そしてそれを売るのも大事だけど、自分で手に入れたもので何かを作りたい。
ずっとこの街にいるわけにもいかないから持ち運びの鍛冶道具も欲しい。やっぱり《アイテムボックス》を自前の物を手に入れるべきだと思う。というか、自分で《アイテムボックス》を作れるようになりたい。
そういう欲求が沸いてならない。
この世界に来て一番興奮している気がする。
「あまりにも興奮しすぎてヘマをしないようにね」
サリエスさんは呆れた顔を浮かべながらそういった。
俺とサリエスさんは、鉱山の魔物を退治する依頼を受けていた。ついでに鉱石を発掘する事も出来るかもしれない。そういう旨みのある依頼だ。ピッケルはワルザさんの所で買った。ワルザさんは鉱石が手に入ったら購入したいとも言っていた。
鉱山の魔物。その中には、鉱石を落とすものもいると聞くし、鉱山に行くと思うと柄にもなく興奮してならない。
ああ、子供みたいにこんな風に興奮して、その様子をサリエスさんに悟られていて何だか恥ずかしい。でもこの世界で久しぶりにものづくりが出来て、鉱山に赴けることになって、鎮めようと思っても興奮は沈められない。
鉱石が手に入ったらどうしようか。自分の武器を作る事を第一の目標にしてみようか。でも武器とかだけじゃなくてネックレスとかそういうものとか、あとは小物とか、実用品とか、そういうものでも何でも作ってみたいと思ってしまう。
何でもいいから作ってみたい。それを売って生活が出来たらどれだけ楽しいだろうか。少し前まで人を殺してしまったことで、沈んでしまっていたというのに今はこんなにも興奮して、将来何をしたいかを考えてしまっている。
――単純だ、俺はと思って呆れてしまうけれど、物作りが出来た事はそれだけ俺の心を前向きにさせた。もちろん、俺の望んでいる未来を手に入れるために平坦な道のりではないだろう。少なくとも俺は《渡り人》という存在でユニークスキルを持っている。そのユニークスキルを持っていることで色々な事が起こるかもしれない。ものづくりが出来ても戦う力がなければ危機に瀕することもあるかもしれない。
だからこそ、強くなる。
冒険者として成功する事を目標とするのではなく、冒険者として成功したその先でものづくりをするために。―――そして将来的に、あまり人に関わらずに黙々とものづくりが出来たらそれが一番良い。
物をただ作り続けて、文句を言われないわずらわしいものの何もない生活をする。それを目指す。
「サリエスさん、俺……好きに生きるために強くなる」
「ふふ、頑張って」
サリエスさんは俺の言葉に笑った。
「そのためにも、ひとまず鉱山の魔物退治頑張りましょうね」
「ああ」
俺とサリエスさんの目の前には、鉱山への入り口がある。
この先で何が待っているのだろうか。良い鉱石は手に入るだろうか。それを思うと鉱山への期待に満ちていた。そして期待を胸に、俺は鉱山の中へと足を踏み入れた。