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32.鍛冶

 土での戦い方など様々なことをサリエスさんから学ぶ。サリエスさんは、エルフという長命種であるのもあって沢山のことを知っていた。

 俺はサリエスさんとパーティーを組んでいるからこそ学んでいけることが沢山あった。

 冒険者として、俺は一歩ずつでも成長していけているのだと実感が出来る。自分が少しずつでも出来ることが増えているというのは喜ばしいことだった。

 ただ、俺はこの街にやってこようと思った目的も達成していきたいと思っていた。

 俺がこの街に興味を持っていたのは、此処が鍛冶の街であるからだ。ものづくり、というものに関心の強い俺は、鍛冶の街で、何かしらものづくりをしたいと思っていた。

 だから門前払いされるかもしれないけれど、鍛冶師の元へ向かってみようと決意する。サリエスさんにそのことを言えば、「なら私は買い物しているわね」といってその日は自由行動になった。

 鍛冶の街というのもあって、この街にはいくつもの鍛冶場があるということなので、行ってみよう。そう思ってまず、一つの鍛冶場に顔を出してみた。

 カンカンカンという心地よい音に何だか心が高揚する。

 そこにいたのはドワーフだった。ドワーフ、という種族は地球に居た頃にそうであるとされていたように、背が低い。ガタイが良くて、鍛冶をするのにはうってつけな力持ちなように見えた。ドワーフは一人だけで他は人間のようだった。俺より皆力が強そうな見た目をしている。ドワーフは俺に気づいて、訝しそうな顔をする。

「お、なんだ、冒険者か。何の用だ?」

「……少し、鍛冶に興味があるのでここに来ました」

「鍛冶に興味?」

 そのドワーフは驚いた顔を向けた。

「はい。俺はものづくりに興味があるというか、そういうのが好きなので。鍛冶もやってみたいなと」

「ものづくりが好き……か。珍しいな。自分の使う物を作りたいとかではなく、ものづくりが好きなのか」

 ドワーフはそういいながらまじまじと俺を見る。とりあえず話を聞いてくれているだけでもよかった。最悪の場合、追い出されるかと思っていたから少しだけほっとする。

「少しだけでもいいので鍛冶の仕方とか教えてもらえませんか?」

「……まぁ、構わない」

「本当ですか!?」

 俺は柄にもなく大きな声を上げてしまった。それだけ、俺は鍛冶というものをしてみたかった。

 ドワーフ—---ワルザさんは、それからインゴットを作るところを見せてもらった。ワルザさんの弟子たちは、何だこいつという目で俺を見ていたので、後々受け入れられればいいなと思う。しばらくは鍛冶について少しずつ学んでいきたいと思っていたから。

 カン、カンと金槌を振り下ろして形を作っていく。その光景を見るだけでも俺は興奮した。生でドワーフが鍛冶をしているところを見れるだけでも嬉しいことだった。

 ものづくりというのは、やはり良いものだ。物が出来る瞬間を見るのもやはり好きだ。地球に居た頃の、ものづくりが好きだという気持ちがまた舞い戻ってきた。異世界にやってきて、”これから”のことを考えることに必死で、そういう好きなものに対することを考える余裕なんてなかった。

 改めてこの世界で、人を初めて殺して、現実の厳しさを理解して、そのうえで、この世界で生きていこうと決めて。そして、ものづくりというものと向き合って。

 俺は———やっぱりものづくりは素晴らしくて、こういうことが好きだって思えた。

 生きていくために冒険者として生活していく道を選んだけれど、最終的にはやはりものづくりをしながら生きていきたい。

 そういう、改めの、自分のこれからの生き方を、望みを実感する。

「―――こんな感じだ。って何を泣いている!?」

「いや……やっぱ、ものづくり、好きだなって思って」

 なぜか俺は泣いていた。なんでか分からない。ただ、やっぱりものづくりって凄いと思って、良くわからない感動みたいなのを感じていた。

 職人、というものはどんな職人であろうともやはり凄い。

 俺は一流の職人というものに、一流の冒険者という存在よりも憧れる。冒険者の方が憧れる人が多いかもしれないけれど、俺は一流の職人の方が憧れる。

「なんだ、それ」

 とワルザさんは呆れたように笑った後に、インゴットを打つのをちょっとだけやらせてもらえた。初めて持つ金槌はとても重くて、持ち上げて振り下ろすという作業も大変だ。だけど、その重さを感じられるだけでも嬉しかった。初めてのへたくそなインゴット。それを手にしただけで何だか嬉しくなった。

 それからその後はワルザさんの弟子たちと交流をした。泣いてしまったような情けない姿見られたあとだったから気まずかったけど、少しは話せたと思う。

 それからその日は「また明日来てもいいか」というのを聞いてから宿に戻った。これからも冒険の合間に鍛冶場に来ることを許してもらえてうれしかった。

 宿の部屋に戻ってからもやっぱり俺はものづくりが好きだというその興奮で中々寝付けなかった。




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