幕間5:谷陽子
私は谷陽子。気づいたら異世界に来ていた。クラスメイト達と一緒にということにとても安心した。騎士になる、ということは怖いと思っていたけれど皆と一緒なんだから大丈夫だって思ってた。―――だけど、幼馴染の麻紀君が死んでしまって、私は怖くなった。麻紀君は、ちょっと変な所あるけれど私にとって大事な幼馴染だった。そして私は麻紀君のことを、ただの幼馴染以上の感情を抱いていた。本当に小さい頃にした「結婚しよう」なんて約束を思い出して嬉しくなるぐらいには。
私は、この世界で生きてくのは怖い。騎士なんてものになったから危険かもしれないって怖い。それに、クラスメイト達も、騎士としてこれからバラバラになっていくと知って怖い。だけどそれ以上に騎士というものをやめることが怖い。―――その後どうしたらいいかも分からないから。未来がどうなるか分からないのに、進んでいくことが怖くて、結局私は騎士を続けている。
ただ私の《写生記憶》は戦闘には向かないもので、私は戦う術も持たないから私の能力を問題解決などに役立ててほしいといわれた。戦わなくて済むのはほっとした。
私と同じように問題解決に役立てるために仕事をしているクラスメイトは何人かいる。そのクラスメイト達は私と共に行動している。
《渡り人》としてわたってきた私たちのことを思って、私たちがなるべく離れ離れにならないようにとしてくれている。そのことからも、私はこの国に対して好感度は高い。――不安も大きいけど、私たちが異世界に転移した国がここで良かったと思っている。
「陽子ちゃん、仕事だって」
「行くぞ、谷」
「うん」
私を陽子ちゃんと呼んだのは丘美喜ちゃんだ。美喜ちゃんは《夢の世界》というスキルを持っている。これは人の夢の中に入れるというスキルらしい。ただしそのスキルを使用している間、本人は無防備になってしまうという欠点を持つ。
もう一人の私を谷と呼んだのは、中条天。中条君は、《物質記憶》という、物の記憶というか、物の記録? みたいなのを読み取れるらしい。
私たち三人は、三人とも戦闘能力がない。戦闘が出来ない分、私たちの周りには私たちの護衛として異世界の騎士たちがいてくれている。
私たちは情報収集などをしている。国内の問題を片づける仕事だ。大変だけど、私の能力が役に立っていたら嬉しいとそんな風に思っている。
いつも通り、記憶をするだけの仕事だと思っていたのだけど―――その日の仕事は、私にとって荷が重かった。
――王都で、恐ろしいことが起こっているという。殺人事件。それを解決するために私たち三人で動いてほしいということだった。
怖い。殺人事件なんて私の側では起こったことなかった。麻紀君が死んでしまったことは聞いているし、ああ、死んでしまったんだって怖くなった。でも、それとはまた違う。だって殺人……そんなものに私が関わらなきゃならないこと、怖い。
でも———この国の人たちは私たちを大切にはしてくれているけれど、騎士だから《渡り人》であろうともちゃんと働くようにって、私が拒否したい気持ちを否定した。私が……騎士をやめるのならばしなくてもいいけれど、私が騎士として続けるのならばこの仕事をきちんとするようにって。そんな風に、護衛をしてくれている騎士達にも言われた。
私は、騎士。
この国に仕える存在。
騎士として生きていくと決めたのならば、やらなければならない。頭ではわかっている。だけど、躊躇しそうになる。
美喜ちゃんと、中条君は私ほど躊躇いはないようだった。怖さはあるみたいだけど、「私たちはここでお世話になるんだからちゃんとやらないと。結果を出さないと駄目」ってそんな風に言われた。頭ではわかる。
中条君にも「もっとちゃんと受け入れた方がいいぞ。これからもっと俺たちは色々やらなきゃなんだから」っても言われた。
……私たちのユニークスキルはそういうスキルだからって。これからそういう問題を解決していかなきゃいけないからって。
割り切らなければならない。
これから、どんなものを見なければならなかったとしても。
―――私はこれから、地球では見ることがなかったものを沢山目にするだろう。そしてその結果何がもたらされるかは分からない。
騎士としてこれから続けていくこと出来るか不安になる。でも、騎士をやめない限りはずっと殺人事件とか、かかわりたくないものに私はかかわらなければならないのか。
恐ろしいけど、美喜ちゃんと中条君が一緒で、一人ではないから頑張ろうって私は思った。
そんな気持ちは――――殺人現場を《写生記憶》を使って記憶した時におれそうになった。
これから私はそういう現場も、ずっと――仕事のために覚えておかなければならないんだ。
クラスメイト一覧(今出ている分だけ)
《騎士》
三森(教師)
・竜崎グループ
竜崎光《光の剣》
紅沙月《炎の鞭》
西園寺南
神崎朱莉《水の衣》
野田千明
沢木代野《氷槍》
・元スポーツ部
村野琢哉《魔球》
八重金太《守りの手》
大洲上一鶴
内川優
山岸美緒《火纏いの剣》
深見果南《高揚の歌》
・問題解決の三人
谷陽子《写生記憶》
丘美喜《夢の世界》
中条天《物質記憶》
《料理人》
中谷智《料理美味》
《モンスターショップ》
渡辺園美《犬耳》
《冒険者ギルド》
秋田奈子《火炎弾》
塚本孝輔《硬質化》
神宮信《癒しの祈り》
松崎賢斗《我流鑑定》
伊上光之助《炎の弓》
榎本千奈《闇の裁き》
《詳細不明》
大鳥学《拳強化》
《生産ギルド》
緑山文佳《植物知識》
《死亡》
真崎麻紀
今の所名前判明しているクラスメイト27名(主人公含めて)
男15名
女12名