30.飲食店にて。
「ヒューガは土の魔法が得意なのね」
サリエスさんが目の前で微笑みを零している。俺は、ギルドに依頼達成の報告をした後、サリエスさんに誘われるがままに最初にサリエスさんに連れていかれた飲食店に足を運んでいた。
サリエスさんに対する警戒の気持ちは少なからずある。だけど、雰囲気とかが驚くほどに優しくて思わずぽろぽろと喋ってしまいそうになる。だけど、余計なことを親しくない相手に喋らない方が良いという思いは強かった。
《渡り人》という存在は、それだけ特殊で利用価値があるものだ。
そのことを言うほどの信頼関係はない。そういうことを話さないでいいように気を付けなければ。
「俺は土属性への適性が凄く高いらしいから」
「まぁ、それは良い事ね。私はエルフというのもあって、魔法は得意なの。ヒューガが望むなら色々と教えてあげられるわ」
サリエスさんは、そういって微笑む。
「冒険者として生きるために必要なことも教えてあげるわ」
「……サリエスさんは」
「ん?」
「なんでそこまでやってくれるんだ?」
なんで俺のためにそこまでやろうとするのだろうか。俺に教えてくれるといってくれるのだろうか。であったばかりの俺のためにそこまでやろうと思うのだろうか。
「なんで、って私はやりたいからよ」
やりたいから、とサリエスさんはいう。
「―――俺が、悪い人間だったらどうするんだ」
世の中の人すべてが善意で満ちているわけでもなく、そんな中で警戒もせずにそんな態度が出来るサリエスさんが不思議だった。俺は、サリエスさんから学べるだけ学ぼうとは思っている。警戒しているけれどそうやって学べるだけ学ぼうと思っている気持ちは、利用しようという考えで、善意に満ちたものではない。
サリエスさんをひどい目に合わせようとかそんな感情を俺は現状考えてはいないけれども、俺が悪い人間だったのならばその優しさに付け込んでいった可能性だった当然あるのだ。
「悪い人間だとか、そんなのはどうでもいいのよ。私がやりたいからやっているだけだもの。例え悪い人間だったとしても問題は一切にないもの。その場合は返り討ちにするだけよ。私は私が教えた相手が私が許せないことをやったとしたら迷いなく切るわ」
サリエスさんは、そう言い切った。
やりたいからやるのだと。そして自分が許せないことをやったのならば迷いなく切るのだと。そう言い切ったサリエスさんは、俺の理想に重なった。
俺は、冒険者として強くなりたいと思った。それは、後々ものづくりをして自分のやりたいように生きるためにだ。
サリエスさんは強い。少なくとも、おそらく俺の事を簡単に殺せるだろう。その強さがあるからこそ、彼女は一切、躊躇わない。弱ければ、誰かに何かを教えるとかでも悩んでしまうだろう。だけど、強ければ何かを教えた結果にどんな事が起ころうとも問題がないのだ。
「そうなのか」
「ええ。ヒューガは私のこと警戒しているのかもしれないけれど、私は私がやりたいからやってるだけだから。それに―――土の精霊がとっても貴方のこと気に入っているわ。精霊が気に入っている相手に悪い人はあまりいないの」
サリエスさんは、精霊と言った。土の精霊が俺のことを気に入っているのだと。やっぱり精霊というものは、エルフと相性が良いとかあるのだろうか。
「――土の精霊?」
「ええ。私は精霊魔法が一番得意なの。ヒューガが精霊のこと見えないのが残念だわ。土の精霊は貴方のこと好いているのね、よく近くにいるわ」
俺には精霊の姿は見えないけれど、俺の周りに土の精霊という存在がいるらしい。正直そういう存在が居るのならば見てみたいと思うのだけど、そういうのは才能とかなのだろうか。何れ何かしたら見えるようになったりしないのだろうか。そう思って聞いてみる。
「精霊って、後から見えたりするか?」
「基本的には精霊を見る眼を持つ者は最初から見える者が多いわね。稀に後から見えることはあるかもだけど期待しないほうがいいわ」
基本的に最初から見えるらしい。となると、俺が精霊を見ることが出来る確率はずっと低いだろう。一旦諦めておこう。でももし見えるかもしれない機会が出来たら見えるようになりたいと思った。
「それで、話を戻すけど、習いたいっていうのならば私は魔法を全力で教えるわよ」
「―――なら、お願いします」
俺は、サリエスさんのことを警戒している。だけど、サリエスさんの言葉を聞いて、俺もこんな風にやりたいように出来るようになりたいと思った。サリエスさんは、俺の理想に重なっている。それもあって、俺はそう答えた。
警戒をしているけれど、警戒をしないようになりたいと思ったから。信用できるのならば、信用したいと思っているから。




