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29.ゴブリン退治2

 十数匹のゴブリンたちに向かって、『アースブレッド』がいくつか向かっていく。俺の《土魔法》のレベルが低いのもあってそこまで多くの量は生み出せないけれども、それでも俺にとって精一杯の魔法だ。複数出現した魔法に、俺は《土操手》を行使する。

 『アースブレッド』だけでは俺はあまりうまくコントロールできない。だけど、《土操手》を使えば、俺にだって操れる。『アースブレッド』単体よりも、《土操手》の方が自由度が上がる。

 ゴブリンたちに向かっていく土の弾。それは、曲がる。ゴブリンたちが避けたとしても、俺の形成した土の弾はゴブリンたちへと向かっていく。

 まだ魔法を使いながら武器を扱うなんていう器用な真似は俺には出来ない。そもそも魔力制御というのが難しいため、そういうことが出来るのは一流になってからだと聞いたことがある。俺もいずれ、その一流にたどり着けたりするのだろうか。

 『アースブレッド』でゴブリンの何匹かを吹き飛ばす。そこまで威力がなかったのか、ぶつかってもまだ生きているゴブリンが多い。もっと威力が強ければ別のなかもしれないけれど、現状の俺には精一杯の魔法である。とりあえずHPを少なからず削ることは出来ただろう。ゴブリンたちは、突然飛んできた魔法に少なからず混乱している。俺はその中に長剣を手に向かっていく。転がっているゴブリンたちの息の根を止める。正直、人の形をした魔物を倒すことを怖いという思いは強かった。だけれど倒さなければこちらが死ぬだけだ、というのをゴブリンたちと対峙していてよく理解が出来た。俺はこの世界で生きていくと決めたのだ。―――その気持ちが強かったから、なんとか息の根を止めることが出来た。動かなくなったゴブリンに何かを思う暇は俺にはなかった。

 それからただ、長剣を振るった。

 俺が対処を出来ないゴブリンたちは、サリエスさんが対応していた。サリエスさんが何かを言えば、風が起こった。何だか俺が使っている魔法とは違う感じがした。どういう魔法を使っているかはさっぱり分からなかった。あとから聞いたら教えてくれたりするのだろうか。

 サリエスさんの強力な魔法と共にゴブリンが吹き飛んだり、一瞬で命を失ったりしていた。恐らく、サリエスさんは俺が居なくても、一人でもゴブリンたちを瞬殺することが出来る存在なのだろう。

 わざわざ弱い俺のためにゴブリン退治の依頼を受け、俺がゴブリンと戦うために全てを殺さずに見守ってくれている。

 それを考えると、俺が如何に情けないかというのが実感できて何とも言えない気分にもなった。そう考えると俺はサリエスさんに迷惑をかけているばかりだ。サリエスさんは、俺のことを気になったといって俺とパーティーを組んでくれているけど、本来なら俺のようなランクの低い冒険者とパーティーを組むような人ではないのだと実感した。

 俺が今ゴブリン相手に戦えているのは、サリエスさんがいるからだ。俺一人であったのならば十数匹のゴブリンを相手にすることなんて出来なかっただろう。そもそもこうやってもう一度頑張ろうと立ち上がれなかったかもしれない。

 その場にいた最後のゴブリンに長剣でとどめを刺す。

 そうした時には俺は息切れしていた。体力が少ないのもあるが、人の形をしている存在相手に戦うことは俺の心には負担だったようだ。

「――ふふ、出来たわね」

 俺は自分のことを情けないと思ってならない。

 この世界で生きていけるようになりたい、なんて願いを持っているけれども俺はまだまだこの世界で一人で生きていくには足りない。そのことを、実感する。

「ゴブリン倒せてよかったわね。どうして難しい顔をしているの?」

「……サリエスさんがいなければ倒せなかったから。情けない、と思った」

「それは当然じゃない。だってヒューガよりも、私のレベルの方が高いもの。それにヒューガは冒険者歴も短いでしょう? 私は貴方よりも冒険者歴長いもの。だから私の方が上手く出来るのは当然だわ。私にだって貴方のように何も出来ないって思っていた時期あるわ。その時期を積み重ねたからこそ、今があるのよ。寧ろ、その積み重ねがないまま強くなった人なんてほとんどいないわ」

 サリエスさんは、俺の情けない言葉にも笑みを零していた。女性に年は軽々しく聞けないけれど、俺よりもずっと長く生きているからこその言葉だろうと思った。サリエスさんは、一つ一つの態度に余裕がある。こういう余裕を持った存在に俺もなりたいと、そう思えるような余裕さだった。

「じゃあ、ゴブリンも退治したし一度街に戻りましょう?」

 サリエスさんはまた笑みを零してそういった。

 倒したゴブリンたちは、サリエスさんの《アイテムボックス》に入れて持ち帰ることになった。





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