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25.出会い2

 どうしてこんなことになっているのだろうか。

 俺はそう思いながらも、助けてくれた女性と向かい合っている。

 女性に連れられてやってきたのは、小さな飲食店だった。女性はよくここにきているのか、飲食店の店主に親しげに話しかけられていた。

 椅子に腰かけ、目の前の女性を見る。

 相変わらずフードをかぶったままで、顔は良く見えない。

「それで、貴方はどうしたの?」

「どう、したのって」

「ひどい顔しているもの、お姉さんに話してみない?」

「えっと…」

 話してみない? といわれても人を殺してしまったという自分の悩みをであったばかりの人に話すのは正直躊躇われた。そんなこといっていいものかと、言いよどむ。

 言いよどんでいる俺に、女性は続ける。

「いいから、いいから。どんな話題でもお姉さんがちゃんと聞いてあげるから」

 女性の声は、どんな話題でもきちんと受け止めるという意思が見えていた。だから、だろうか……。だから、話してもいいかななんて思ってしまったのは。

「俺、冒険者です」

「ああ、見ればわかるわ」

「……この前、初めて、人を殺しました」

「へぇ」

「……盗賊でした。でも……、俺が、今までいたところは平和で、そういうのと無縁でした」

「いい所に住んでいたのね」

 女性はそういって頷く。

 名前さえも聞いていないのに、どうしてこんなことを話しているのだろうとそんな疑問もわいてくるけれどもそれでも優しい話し方に、安心してしまう。

 安心して、ぽつりぽつりと話してしまう。

「そう、だな。今、考えると、そうなんだ。でも、帰れないから……ここで、生きていくと、冒険者として生きていくと決めた」

「そうなのね」

「でも、初めて殺したから……割り切れないんです」

 割り切れない。

 殺してしまった事実に。ここで、生きていくと決めたのに。

 恐ろしい夢を見る。地球では全然無関係だった、人の生死にかかわっているという事実に、恐ろしいと思った。

「ふぅん。ねぇ、貴方は……、魔物とかは殺せる?」

「ああ」

「会話が通じる人を殺すこと、それは魔物を殺すことと貴方にとっては違うかもしれない。でもね、同じ命なの。魔物は必要があるから、殺したのでしょう。その、盗賊もね、殺さなきゃこちらが殺されるから殺したってことよね」

「……そう、です」

 女性の言葉を、聞く。

 魔物を殺すと、盗賊を殺すのが一緒。確かに言われてみれば同じ命だ。

 殺さなきゃ、殺されるから殺す。

 死にたくないなら、殺さなければならない。

「本当にね、誰も殺したくないというその思いがあるのならよっぽど強くならなければならないのよ。本当に圧倒的に強ければ、相手を殺さなくても自分は死なないでしょう。でも、よっぽど強かったとしても、これからの未来を思うなら殺す選択をする場合だってあるわ」

 殺したくないなら、誰よりも強くなればいいという。圧倒的なほどに強ければ、相手を殺さなくても死なずにすむからと。それは確かにその通りなのだろう。こういう世界であるからこそ、強くあったらやりたいように生きられるのかもしれない。

「あくまで、冒険者として生きていくならという話だけどね。強さを手に入れずに他の道を探して生きていくのも一つの選択肢と思うわ。そしたら殺す殺さないの世界からは冒険者よりは離れられると思うわ。とはいっても、絶対にそういうものに関わらずに生きていけないとは言えないわ」

 あんなに平和だといわれていた日本でさえ、殺人や暴行事件は起こる。俺がたまたまそういうものに直接的にかかわらずに生きていたが、そういうものに関わる可能性は0パーセントではない。この異世界では、地球にいた頃よりもそういうものに関わる可能性は高いだろう。

「俺は……冒険者を、続けたいと思う」

 俺は、女性の言葉を聞いたうえで、そう答えた。

「……俺は、一生、冒険者を続けるつもりはない。この世界を見たい気持ちもあるし、強くならなきゃ色々やりづらいって思うから……冒険者をしているけど、いずれは……、物を作っていたい」

「物を?」

「そう、です。ものづくりが好きだから……。好きなものを作って、好きなように、あまり人とかかわらずに……、のんびりと暮らしたいと、思います。あくまで、冒険者をして、ある程度、めどがたってからになるけれど……」

 何をしたいか、どう生きたいか、まずそれを考えたらそんな考えが浮かんだ。

「殺すことを、割り切るとかは、まだ出来ないです。でも……強くなりたい。やりたいように、生きるためにって、思うから」

 今は、異世界に来て異世界を見たい気持ちもあるけれど……俺の本質は黙々と何かをすることなのだ。冒険者としてやっていって、自分がやりたいように生きれると思ったら人とかかわらずにモノ作りをしてのんびり生きたいと、そう思ったのだ。

「そうなのね、なんだか、面白いわね」

「面白い、ですか?」

「ええ。冒険者として大成したい、とかではなくて冒険者を自分がやりたいことの糧にするためにしているみたいなのがね。本当にそんな生活出来るようになるのか、気になってきちゃった」

 その人はそういって笑った。そして続けた。

「ねぇ、貴方、パーティーメンバーいないなら、私と一緒に冒険する?」

「え?」

「ちょっと貴方がどんな人生を歩むのか、気になったの」

 女性はそういう。

 それを受け入れていいべきか、俺は悩んだ。

「私のこと、警戒している?」

「……はい」

「まぁ、警戒はしたいだけしてくれたらいいわ。ね、いいでしょ?」

 話を聞いてもらって、少しだけ警戒心がなくなっていたのもあって、結局そんな言葉に頷いてしまった。





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