22.護衛依頼5
三つ目の村は、一つ目の村とも二つ目の村とも雰囲気が違った。
一つ目に訪れた村は、畑が多い穏やかな田舎の農村といった雰囲気だった。そして二つ目の村は、余所者に対して警戒心の強い村だった。そして三つ目の村は、一つ目の村ほど俺達を歓迎するわけでもなく、二つ目の村ほど警戒しているほどでもなく……、こちらに対して無関心な雰囲気の村だった。穏やかでもなく、殺伐ともしていない。だけど、なんというか、こちらに関心が特にないのか、聞けば答えてくれるけれど聞かなければ何も答えてくれないというかそんな感じの村だ。この護衛依頼の中でも様々な村を訪れる事が出来るというのは良い経験になっていると思う。
《銀の狼》のメンバーのガントルさんたちに、この世界の村や町について色々とその日聞いた。人の中にはやはり、善人もいれば悪人もいて、語るのも嫌になるぐらいの酷い村というのもこの世界には存在していたりもするといわれた。その、ガントルさんたちが一度だけ遭遇した村は村ぐるみで旅人をだまして、奴隷商に売り飛ばすという事を行っていたらしい。ガントルさんたちも奴隷落ちする所だったが、どうにか逃げだし、その村全体を騎士に差し出して事なきを得たという。親切心を装って近寄ってきて、奴隷落ちさせられる……正直現代日本で、この世界より平和な世界で生きていた俺としてみれば聞いてなければだまされたかもしれない。
それにしても、奴隷というものは俺にとってなじみのないものだから実際に遭遇した時どういう気持ちに陥ってしまうか自分でも分からない。竜崎なんかは、奴隷は解放しなければと動きそうだが、異世界人がこの世界で普通としてまかり通っている事に口出しをしてどうなるかという問題もある。郷に入って郷に従えという言葉があるように、現地の常識に合わせていくことが第一だろう。
9日目、村を出て先へと進む。
今の所、これといった問題もなくいつもよりハイペースに進んでいけているという話だ。この調子なら14日目にはドワンの街へつくのではないかという話だった。
新しい街。それも、鍛冶の街。
どのような街だろうと考えると、少し興奮する。鍛冶、俺もやってみたいけれど教えてくれたりしないだろうか。出来たら鍛冶の仕方を教わりたい。生きていくために強くならなければならない。特に《渡り人》だと知られたら興味本位で手を出してこられる可能性もある。自分が生きていきたいように生きるために、強さは必要だけれど戦う事よりも、やっぱり俺は何かを作ったりすることの方が好きなんだと思う。だからこそ、鍛冶の街へ行けると思うだけでも心が躍っている。この世界に来てものづくり全然できてないから鍛冶の街で何かしら作りたいと思ってしまう。そして……日本では作ったりできなかったものを作ったりしながらものづくりをして生活出来たら一番いい。
生きていくための選択肢として冒険者を選んだ。でも、最終的には冒険者としてではなく、そういう道でのんびり生きていくのが一番いいと鍛冶の街への思いを馳せながら改めて感じた。
《エラアクナ》のナナさんにその話をしたら「ものづくりが好きなんだね」とニコニコと笑われた。
10日目に突入した。魔物を倒したりはあったけれど、特にこれといって大きな事件は起きなかった。それにほっとしながらその日も一日を終える。
何も起きない事を退屈と思う人もいるかもしれないが、こういう世界だと何かがあったら大変だ。何もなく平穏に終わる方がいい。少なくとも今何かあったら俺は生きていけるか分からないし。
そして11日目。その日も《銀の狼》と《エラアクナ》のメンバーに、戦い方をまた学ぶ。この護衛の旅ももう半分も過ぎていて、この頼もしい冒険者の先輩たちとももう少しでお別れかとそれを実感する。
12日目。
最後に立ち寄る村にたどり着いた。だけど……、そこは、村とされていたはずなのに、人気は一切なかった。
「……これは」
ガントルさんが声を上げた。そして俺と数名にはティーレリ商会の護衛対象を守っているようにといわれた。ガントルさんたちは、周りを探索に出かけた。
何が起こっているのか、俺には見当もついていない。だけど、冒険者としての経験がある彼らは、何が起こったかも、わかっているようだ。
俺はその話を、エメナさんに聞いた。
「……おそらく人の仕業だと思うわ。まだ断言はできないけれども、抵抗した後も見られるし。多くの人が死んだり、連れ去られたりはしたのだと思うわ。死体は、魔物を引き寄せる要因になるから処理はしたのでしょうけれど」
そしてエメナさんは続けた。
「近くにまだ潜んでいる可能性があるから、気を付けなければならないわ」
いつもニコニコと笑っているエメナさんの真剣な顔を見ながら、俺も固唾をのんだ。