20.護衛依頼3
護衛依頼の二日目。その日は魔物が一体だけ襲ってきた。それをガントルさんが軽く倒していた。慣れた様子で倒す様に正直憧れた。俺は見た事もない魔物だったから、どういう魔物でどういう急所があるのか、そういうのを聞いた。今度その魔物が現れたら俺に相手をさせてくれると言ってくれた。
途中で違う馬車ともすれ違った。その馬車はティーレリ商会と友好関係を結んでいる商会の馬車だったらしく、友好的な会話が交わされていた。
「ただティーレリ商会は大きい商会であるのもあって、敵対している商会もおおいのよ」と、エメナさんがこそっと教えてくれた。
俺は商売には詳しくないけれど、商人には商人の戦いというか、そういうものがあるのだろうなと思った。商売の才能や知識があれば冒険者ではなく、そういう道を選べただろう。いや、商売に興味があったなら弟子入りするという形も出来ただろう。でも正直商売の道というのは、この世界に来てどう生きているか考えた時にそういう風にしようなどとは考えなかった。
その日の夜番は《エラアクナ》のライノーさんと、《銀の狼》のロガさんと一緒だった。交代が来るまでの間、俺は沢山の事を彼らに聞いた。
二人は色々な事を聞く俺に呆れた顔を見せながらもきちんと教えてくれた。ただ冒険者は荒っぽい者が多いから、あまりこんな風に聞きすぎたら怒られる可能性があるぞと言われた。それはその通りだろう。
俺も何から何まで沢山の事を聞いてくるような存在と共にいたら少しぐらいいら立ちを感じてしまうだろう。気を付けなければならない。
次の街にたどり着いたら、まずは人に聞く前に本などで沢山の事を学ぼう。魔物の種類も他と違う事もあるだろう、そのためにギルドで情報収集もする必要がある。
交代がやってきた後は、そのまま朝までぐっすり眠った。
護衛依頼の三日目。
その日は特に戦闘はなかった。街道を進んでいるのもあり、そこまで魔物と遭遇する事はないらしい。これが山中を移動するとかだと、結構な確率で遭遇するものだという。
比較的平和だ。
だけれども、気を抜きすぎては駄目だと注意をされた。確かに何も起こらないかもしれないけれど、護衛任務という仕事中なのだから何も起こらなかったとしても、注意しすぎだといわれるぐらい周りに注意を向けるべきだと。
その日は戦闘も何もなかったため、馬車を休憩で泊めている間は少しだけ魔法とユニークスキルの練習をした。何が起こるかわからない移動中に無駄にMPを使うべきではないとライノーさんに怒られた。
確かにそれはそうだ。余裕もない、この世界において弱い俺が下手にMPの無駄遣いをするのは控えるべきだろう。周りに先輩の冒険者たちがいるから平気といえるかもしれないが、本当に何が起こるかわからないのがこの世界なのだから。
この世界には、一国を簡単に滅ぼせるような化け物もそれなりに居る。手を出してはならない存在がいる。そういう存在は遭遇したらまず死ぬ。この世界で生きていれば少なからずそういう存在と遭遇する可能性があるわけで、そう考えると恐ろしい。
滅多にない事だがと言いながら、《銀の狼》のミツルさんが夜番の時にそういう存在について教えてくれた。
この国の渡り人である崎野真琴も手を出してはならない存在に分類されているらしい。国の権力者であり、《魔法帝》なんて呼ばれている彼はギルド最高ランクに匹敵するらしいから、本当に敵に回さないように気をつけるべきだろう。
この世界は気を抜いたらすぐに死にそうだ。
正直それを思うと地球は平和だったのだなと思えた。いや、地球はというより日本はというべきか。それなりに殺人事件もあったけれども平和に過ごせていた。
夕方ごろに一つの村にたどり着いた。人口が50人もいない小さな村だ。畑が広がっていて、田舎の農村の雰囲気がある。それにしても一番最初に俺たちがたどり着いた場所は街だったけれど、もし村にたどり着いていたら大変なことになっていたのではないか。
50人もいない村に41人の人間が突然現れるなどは大混乱である。あとこういう田舎だとよそ者に厳しいイメージもある。渡り人とはいえ、正体不明の人間が現れて大混乱になっていたらどうなっていたか分からない。それを考えればあの時国の騎士と遭遇したことは良かったといえるだろう。
村には宿屋というものもなく、村長の家でお世話になることになった。ただし馬車の荷物を見張る役目があるため、交代でその役目についた。
結構盗まれる事も多くあるらしい。あとスリも多いので、人が多い場所にいった際はそのあたりも気を付けるようにとも注意してくれた。
ウーヤさんが勧めてくれた今回の護衛依頼は一緒に依頼をこなす冒険者も、護衛対象である商会も、良い人ばかりだ。俺があまり何も知らないから、色々と教えてくれる。でもこの護衛依頼が終わったら、そういう人ばかりではない場所に出ていくのだ。ガントルさんたちが良い人なだけで、そういう人ばかりだけではないのだから……。
そんなことを考えながら、村長の家の中で眠りについた。