13.魔法
新たな街に出かける前に俺は魔法というものを覚えたいと考えた。
この世界には魔法と呼ばれる地球ではなかった力が存在する。それを言うならばスキルもそうだけど、この世界は地球での生活を基準にして考えてはいけない。地球にはなかったものがたくさんある。
正直ユニークスキルなんてものまで持っている渡り人が普通の魔法も使えるとか考えていなかったのだが、ウーヤさんからこの国の権力者である渡り人の話を聞いてその考えは変わった。
この国の権力者である崎野真琴という男は、すべての属性を使える希有な人物であるらしい。しかしそれがユニークスキルというわけでもなく、本人のユニークスキルは《小動物》という変なというか、ちょっと人に好かれやすくなるといったスキルだったようだ。自動発動のそれは随時発動されておりめきめきとレベルもあがり、どんな相手の懐にでも入っていけるようになったらしいが。
しかしそんなスキルは戦闘では役に立たない。魔物にもきけばよかったようだが、このスキルは人に対するものであり、戦うすべのなかった彼は魔法をすべて極めたらしい。
「……すべての人には魔法を使う才はある。しかし属性に対する相性というものがあり、魔法師と呼ばれるほどの使い手になれるものは一握りである。しかし相性というものは伸ばすこともできる。それはサキノ・マコト様の例からも見て取れるか……」
今、俺が読んでいるのはギルドで借りた崎野真琴に関する本である。
まず魔法の属性は火、水、土、風、雷、光、闇といった種類がある。また他にも時空や氷などといったものもあるが、基本的に最初に述べた属性のうちで相性が特に良いものがあるらしい。
崎野真琴の場合は水と光以外の相性はよくなかったらしいが、そこは渡り人としての長寿を活かしてひたすらに魔法を使い続け、その相性を伸ばしていったんだそうだ。
いくら時間があったとしてもすごい根性である。現在では魔法を極めたものとか、魔法帝とかかっこいい名で呼ばれているらしい。あとそういう呼び名っていうのもステータスには反映されるらしい。
《魔法帝》の呼び名は魔法の威力が上がったりとかそういう便利な効果があるそうだ。
とりあえずは冒険者ギルドで適性を確認してもらって、あとは魔法書を買うか、ギルドで教えてもらうかだな。
そうなるとまたお金が飛ぶ。
次の街に行くためにコツコツためていたものだけど、まぁ、仕方ないといえば仕方ない。この街にはまだ俺と一緒にこの世界に来た連中もいるし、渡り人について周知の事実である。しかし、ほかの街では違う。ここでは俺たちは守られている。この街はよい街だ。だけど、外が良い場所であるかはわからない。
いくらでも戦えるすべは必要だ。
……あと後回しになってしまっている《土操手》についてももう少し試行錯誤もしなきゃならない。
というか、俺のユニークスキルは土関係だし、正直魔法も土属性と相性がいいのではないかと正直俺は思っている。
その場合は二つを組み合わせて俺だけしかできないこともきっとできるはずだ。
そんな風に考えてはいるが、実際問題調べてみないと相性はわからない。俺の土を操れるなんてよくわからないスキルを魔法があればもっと有効的に使うことができるだろう。
ギルドに本を返しにいくついでに適性を見ることにした。
「日向じゃねぇか、元気だったか?」
冒険者ギルドの扉を開けた途端俺を見つけて話しかけてきたのは、塚本孝輔である。俺と同じくギルドに所属することを選んだうちの冒険者の一人。
見た目は正直いかつい。それもあって誤解されがちだが、実際は心優しい。そんな男である。一度《硬質化》のユニークスキルを見せてもらったことがあるが、中々堅かった。俺は一撃も入れられない。そんな有効なスキルを持っている。
「元気だ」
「それはよかった」
にこやかにほほ笑んでいる塚本だが、正直に言えばその顔は少し恐ろしい形相をしている。笑うたびに周りにおびえられるのはちょっとかわいそうである。
「あ。ウーヤさん。俺、魔法の適性を見たいんですけど」
塚本と会話を交わしてウーヤさんのもとへ向かった。ウーヤさんは俺の言葉に笑顔でうなずき、個室へと案内してくれた。人に適性を知られないための配慮である。
そしてウーヤさんはいったん席を外してひとつの水晶を持ってきてくれた、
ただの水晶ではない。人の魔法適性を図るものである。
千年近く昔に大賢者と呼ばれた存在が生み出したものらしい。その技術は販売元である《賢者の箱舟》の元で千年間秘匿されているという。正直言ってその事実はすごいとしか言いようがない。
俺は柄にもなく少し緊張しながらもそれに手を触れる。
そうすれば、それは光った。一瞬だったが、見えたのは強烈に水晶を彩る黄土色だった。




