幕間1.神崎朱莉
主人公以外の転生者についても少しずつ入れていく予定なので、とりあえず騎士になったものたちについて。
神崎朱莉side
騎士。
そんな立ち位置に自分がいることは正直信じられない。騎士なんていう存在は現代社会ではもう存在しない職業だ。
剣と魔法の世界であるならともかく、現代社会は銃があり、そういう騎士なんてものはいなくなっている。
異世界にクラスごと連れてこられ、そして誘われ、騎士になった。私は、正直信念とかがそこまであるわけではない。ただ、光君たちが騎士になるといったからついてきただけなのだ。光君たちはお友達だから、離れたくなかった。
異世界なんてものに来て、一度離れたらきっと今度会うことも大変なことだろう。
他の生徒たちや担任の先生はお友達と離れたくないよりも、この世界で生きていくことへと不安から騎士という職業に収まったのだと思う。
……騎士にならなかった組は少数だ。41名中半分は騎士になった。他の人たちがどうしているのか噂で聞いたりはするが、詳細がわからない人もいる。
もしかしたら、死んだかもしれない。
それを思うと少し胸がざわついた。けど、そういう道を自分で選んだのなら仕方がないことなのかもしれないと思う。
皆がそれぞれの道を歩みだそうとしている。騎士になった人たちは、まだ一緒の道を歩んでいるけれど、正直それがいつ別れるかなんてわからない。光君はそのことを悲しんでいた。光君が悲しむのを見るのは正直言って嫌だった。
だから、道が分かれることがあまりなければいいと思う。
ただ、私は道がわかれる事が絶対にないとは断言はできない。私たちはいうなればただの高校のクラスメイトという絆しかない。地球に居たって卒業をすれば離れ離れになったことは確実だろう。そんな絆。いうなれば、それだけの絆。
私は、そんな絆を永遠だと信じている光君の事が眩しく思える。
「朱莉、どうしたの?」
「沙月ちゃん、少し、考え事をしていたの」
私にとって眩しく、憧れである光君が悲しむのは見たくないと思ってしまう。きっとこの世界は地球よりも優しくなくて、人が死ぬという現実だって沢山あるだろう。
そんな中で私たちは騎士になった。
力があるから騎士に誘われ、光君がそれを決断した。
それは優しいようで、きっと優しくない道だ。国の騎士であるのならば、国のために戦わなければならない。
―――例えば、戦争が起きたなら私たちは人を切らなければならない。
「考え事?」
「うん。今は皆、騎士になれたって、異世界だってはしゃいでいるでしょう?」
非現実的な世界に憧れるっていうのは、私の中にもある感情。そしてきっと皆の中にも少なからずある感情。
「でも、きっと、誰かが死ぬ事、あると思うんだ」
「……そうね」
「その時、光君は大丈夫かなって思ったの」
「光は、確かにもしそういうことがあれば凹むでしょう。でも、そこで凹んだままでいる男ではないわ。私の惚れた男だもの」
沙月ちゃんはそう言い切った。沙月ちゃんはかっこいい女の子だ。自分の意志をしっかり持っている。
「―――それに、私はなるべく仲間をしなせないわ。絶対に殺させないなんて事は言えないけれど、私の力を持って、守り抜くわ。光だってそうよ。私たちが、守るなら誰かが死ぬなんてことそうはないわ」
「うん。……そうだね」
沙月ちゃんのユニークスキルは、《炎の鞭》。
赤は、強烈な炎は沙月ちゃんによく似合う。炎を纏った鞭で敵を薙ぎ払う。私の《水の衣》は自分だけを守る力。もしかしたらレベルが上がったら他人にも作用する事も出来るかもしれないけれど、現状では私にはそんなことは出来ない。
私は私の事を守る事は出来ても、他人を守る事は出来ない。
「私は少なくとも、光や朱莉たちを守れるぐらいの力は欲しいわ。ユニークスキルだけでは不安だもの。スキルもどんどん取得しなければ」
「うん」
「騎士になった者たちの中には、ユニークスキルを慢心しすぎている人たちもいるわ。でも、多分それだけでは私たちはすぐ死んでしまう」
「うん。注意、したほうがいいかも」
「……私が注意してもきかないのよ。特に、村野達は」
「……村野君たちか」
村野君たちは、スポーツが得意で地球に居た頃から目立っていたグループだ。サッカー部のエースの村野琢哉君、ゴールキーパーとして実力者の八重金太君、バスケットボール部の得点王の大洲上一鶴君、野球部のピッチャーの内川優君。
スポーツが得意であった彼らのユニークスキルはそろいもそろって戦闘系であった。
それも光君ほどではないけれども、クラスメイト内でも強い分類に入る。
「光君は、なんて?」
「光は少し楽観的だから大丈夫だろうって笑っていたわ。でも放っておいたら最初の死者になるかもしれないわ」
「うん」
「朱莉、彼らを殺させないためにも、手伝ってくれるかしら?」
「うん」
正直、不安な事は沢山ある。でも私には信頼できる友達がいる。
私たちは完璧ではないから、補いあいながら上手く歯車を回していけたらいいと思う。
もうしばらくしたら私たちは王都に向かう。この地に残るクラスメイト達とは会えないだろう。でも、いつかまた再会できたらいいなとそんな風に考えた。




