新しいご飯ぬい!
雅人の食事の時間になると、アミィはそれを興味津々に眺めている。
ぬいぐるみであるアミィは、食事を必要としない。自分は食べられないからこそ、雅人の食事に興味があるのかもしれない。
最初のうちは、雅人も食べている姿を眺められることに嫌悪感に近い感覚を持っていたが、今ではもう慣れてしまっている。
ある日ふと、雅人の食事中にアミィが呟いた。
「アミィも新しいご飯欲しいぬい」
雅人は口に含んでいた野菜炒めを飲み込んでから疑問を口にした。
「は?お前食わないだろ」
「でも欲しいぬい」
また始まった、謎の物欲。
食べもしない、そして食べられもしないものを集めてどうするんだか……。
「そのうちな」
てきとうに流してしまおう、と食事に戻る……つもりだった。
「絶対ぬい」
「そのうちな」
「約束ぬい」
「そのうちな」
「まさとはアミィのご飯買ってくるぬい」
「しつこいな」
「絶対ぬい」
「だーもう!わあったよ!」
「約束だぬいー!!!」
上手く口が回らなかった。それでもアミィにはしっかり伝わった。いや、伝わってしまった。
言質をとられてしまったようなものだ。
アミィはうきうきした様子で自分の部屋に戻り、カレーとオムライスが入った冷蔵庫の中を覗いていた。
またおもちゃ屋へ行くのか……憂鬱とした気持ちになりながら、残りの晩ご飯をかきこんだ。
次の日の、講義は午後しかなかったため、雅人は朝からおもちゃ屋へ向かった。
いつもと同じシリーズのコーナーへ行く。
何度も来ている場所だが、今までは食べ物を探そうと来たことはなかった。
改めて見回してみて気がついた。
「食べ物って、あんまなくね」
厳密に言えば、食べ物はたくさんある。パンにドーナツ、アイスやクレープ。
しかしどれも、メインは「お店」で、食べ物はその「お店」の「商品」であった。
他のセットと言えば、サラダ類が入っているものだろうか。
家にあるカレーとオムライスは、本来はストラップとして売られてた物だ。
同じシリーズで他の物もあったような気もするが……あまり覚えていない。
「さて、どうしたものか」
おもちゃ屋の別コーナーも見てみるが、どれもこれも大きすぎる。
「やっぱこのシリーズの大きさがぴったりなんだよなあ」
最初のコーナーに戻ってきたが、何度見ても品揃えが変わるわけではない。
「店とかいらねえし」
悩んでいると、思ったより早く時間が経つ。
大学に行く時間も近づいてきていた。
とりあえず今は諦めるか、とおもちゃ屋を後にした。
雅人が次に向かったのは、おもちゃ屋の隣のスーパーである。
ガムを買いに、お菓子売り場に一直線。
と、お菓子売り場であるものが目に入った。
それが「食玩」である。
その売り場では、実物の食玩がいくつか飾られていた。
「これ、大きさ丁度いいんじゃね?」
食玩は何種類か売っていた。
ハンバーガー類、和食類、コーヒー類……少し迷ったが、ハンバーガーやジュース、アイスが入っている食玩を2つ購入した。
もちろん自分のガムも忘れずに。
バイトのシフトが入っていない日だったため、講義後直帰した。
「おら、お土産」
そう言って、テーブルの上にいるアミィの前に箱を置く。
箱自体は、アミィより大きかった。
「何ぬい?」
アミィにとっては大きすぎて、全体を認識できていないようだった。
雅人は箱を開けてあげる。
1つ目の箱からはハンバーガーセットが、2つ目の箱からはアイスセットが出てきた。
「ご飯ぬい!?」
箱から出てきたことで、アミィも中身を認識することができた。
机の上に置かれたそれらに駆け寄るが、まだビニール包装されているため、直接触ることはできない。
雅人はビニールも開けてやり、1つ1つ取り出す。
ハンバーガーやジュースは付属のトレイに、アイスは付属の皿に乗せ、スプーンを添えた。
取り出しながら観察してみる。細かいところまで作り込まれていて、その完成度に感心した。
「これアミィが貰っていいぬい!?」
「お前が欲しいって言ったんだろ」
やったー!と素直に喜び、食べ物を様々な角度から眺めている。
アミィが見やすいように、雅人はアミィの部屋からテーブルを出してきて、その上に食玩を並べた。
「まさと~!ありがと~!」
「はいはい」
アミィの隣で、雅人はPCを点けた。
雅人がレポートを終えるまでの間、アミィは食玩を眺め続けていた。