晩ご飯だぬい!
「おかえりぬいー!アミィは今日もいいこにしてたぬい!」
大学から帰った雅人は、自分に向かって走ってくる手のひらサイズの女の子のぬいぐるみを無視して跨ぐ。
「まーくん!無視はだめぬい!」
「んだようっせーな。はいはいただいま」
鞄を置いて、ベッドに寄りかかるように座った雅人を追いかける。
アミィは雅人の前にあるテーブルによじ登った。
「ご飯にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?」
アミィは短い右手を腰に当て、短い左手を頭の後ろに持っていこうとするが届かず、左耳に触れている。
いわゆる「セクシーポーズ」をとろうとしているのだ。
「飯も風呂も用意できねえくせに何言ってんだか」
そのままアミィを放置してテレビを点ける。
たまたまかかったバラエティ番組を眺めることにした。
「まーくんはつれないぬい」
「その『まーくん』てのヤメロ」
「まさとは女の子だったぬい!?」
「そういう意味じゃねーよ」
アミィは呆れるほど馬鹿だ、と常々思っている。
「アミィは女の子だから、まさとと結婚できるぬい!」
「ぬいぐるみだから無理だろ」
アミィは、ガーン!といった音が聞こえてきそうな表情をする。
実際には、表情は一切変わっていないのだけれど。
アミィは常に真顔だ。ついでに、話す時も口は動かない。
体の動きから、表情を読み取るだけ。
「まさとの晩ご飯は何ぬい?」
「は?関係ねえだろ」
「関係あるぬい!アミィもまさとと同じもの用意するぬい!」
そう言って、アミィはテーブルから飛び降りて自分の「部屋」に走っていった。
そこにはシ○バニアの家があり、中には家具が並べられている。
「さあ!まさとの晩ご飯はどれぬい!?」
そう言うアミィの前には、カレーとオムライスが並んでいる。もちろんおもちゃだが。
「どれって……二択しかねえじゃん」
雅人の声が耳に入っているのかいないのか。
アミィはどや顔、厳密にはどやポーズをとったままである。
「あー……ラーメンかな」
雅人のその発言に、再びガーン!といったポーズをとるアミィ。
「ラーメン……材料が足りないぬい……」
材料があっても調理できないだろ、おもちゃだし。
と思ったが、言葉にはしないでおいた。
雅人はしばらくテレビに目を向けていたが、アミィが床にうつ伏せになって
「ラーメン……にっくき相手ぬい……」
とぶつぶつ呟いているのが気になって仕方ない。
仕方ないな、と思う。
「オムライスにしてやるよ」
雅人のその発言に、アミィはガバッと体を起こした。
そして再び雅人の前のテーブルの上までやってくる。
「さあ作るぬい!今作るぬい!早く!さあ!」
よほど嬉しかったようで、周りに花を飛ばしているかのように見える。
実際には真顔で、花も飛んでいないのだけれど。
「はいはいやりますよ」
ただ眺めているだけだったテレビを消し、キッチンに向かった。
アミィはキッチンに近づいてはいけない決まりになっている。
しかしキッチンに近づかなくとも、ワンルームであるため、テーブルの上からでも雅人を眺めることが十分可能だ。
料理する雅人の背中を、うきうきしながら眺めた。
雅人が完成したオムライスを持ってテーブルに戻ってくる。
アミィも慌てて自分の部屋に戻り、オムライスを運ぶ。
それを見た雅人は、アミィの部屋からテーブルと椅子を取り出し、自分のテーブルに置いた。
「おそろいのご飯食べるぬい!」
「お前は食わないだろ」
「気持ちの問題だぬい!」
そうして2人で晩ご飯の時間を過ごした。
奇妙な2人暮らしの、そんな日常。