働くおじさん
ボブ「ここはどこ?」
健太「丸の内だよ」
ボブ「大きなビルが沢山あるんだね。今日はどこ行くの?」
健太「投資銀行ってとこだよ」
ボブ「何しているところ?」
健太「お金を動かしているところだよ」
ボブ「お金を運んでいるの?」
健太「そうじゃなんだよ。お金を持っている人からお金を預ってその人の代わりにお金を使って増やしているんだよ」
ボブ「何かよくわからないけど、楽しみだな。早くおじさんに会いに行こうよ」
健太と猫のボブは林立するビル群の中で一際そそり立つ魔女の住処のようなビルに入っていく。
健太「あ、おじさん」
おじさん「健太君じゃないか」
健太「おはようございます。今日は友達のボブと一緒なんだ」
ボブ「おはようございます、おじさん。早くおじさんのお仕事を見せてよ」
おじさん「せっかちだな、ボブ君は。わかったよ。じゃ、行こう」
三人は日本最先端の総面ガラスのエレベーターに乗っておじさんの働いている34階まで数秒で上がっていった。
ボブ「耳がキーンとするよ」
おじさん「慣れれば、大丈夫だよ。ほら、ごらん」
健太「人や車があんなに小さい」
おじさん「ゴミみたいだろう。おじさんにとっては本当にそうなんだよ」
ボブ「エー」
おじさん「じゃー、おじさんの部屋へ案内するよ」
パソコンに向かうお姉さん。お兄さんが忙しそうに電話に怒鳴っている。天井は高く、空間に整然と机が並んでいる。おじさんは通路を堂々と歩いていくとすれ違うお姉さんもお兄さんも皆、頭を下げていく。
健太「おじさんって偉いだね!」
おじさんは満更でもなさそうに微笑んだ。
おじさん「さぁー、ここでおじさんは仕事をしてるんだよ」
フロアの角のあるその部屋は総面ガラスで眼下には宮殿の森が広がっている。部屋の真ん中にあるソファーにどしりと座るおじさん。健太もボブも座ると体がソファーの中に沈みそうになる。
健太「このソファー、まるで雲の上にいるみたいだ。おじさんはここでどんなお仕事をしているの?」
おじさん「困っている人にお金を貸して家を買ってもらうんだよ」
ボブ「おじさん、すごーいや!やさしんだね」
健太「おじさんはお金持ちなんだね?」
おじさん「いいや違うんだよ。おじさんの持っているお金はそんなにないんだよ」
健太「じゃーどうして沢山の人にお金を貸すことができるの?」
おじさん「健太君はボブ君に何か貸したら、その後どうする?」
健太君「うーん、前にボールを貸したけどボブはちゃんと返してくれたよ」
おじさん「そうなんだよ。『借りたら返さなければならない』だよ。でも、もしボブ君が返す前に健太君からおじさんがそのボールを買ったとしたらどうなる?」
健太「うーーん」
ボブ「僕は健太じやなくておじさんにボールを返せばいいんじゃない」
おじさん「その通りだ。おじさんがまずお金を貸すだろう。そしたら、次にお金を返してもらう前に『Aさんに返してください』ってAさんに渡しちゃうんだよ」
ボブ「タダであげちゃうの?」
おじさん「違うんだよ。おじさんはAさんからお金をもらうんだよ。そして、そのお金をまた困っている人に貸すんだよ」
ボブ「どんな人に貸すの?」
おじさん「借りたお金でお家を買う人だよ」
ボブ「健太のお父さん、お家を買わなかったけ?」
健太「ウン、でも昨日追い出されたんだよ」
おじさん「健太君のお父さん、借りたお金を返せなかったんだよ。返せないとお家がとられちゃうんだよ」
ボブ「おじさんは困らないの?」
おじさん「おじさんは貸したらすぐに他の人に渡してお金をもらっているから、後はどうなったって関係ないんだよ」
ボブ「でも、健太君かわいそうだなぁ・・・」
おじさん「そんな人は沢山いるんだよ。でも、おじさんには関係ないんだよ」
健太「そっか!おじさんはもうお金をもらっているからね」
おじさん「そうだよ、健太君。健太君のお父さんのような人のお蔭でおじさんは暮らしていけるんだよ」
健太「ぼくもおじさんみたくなりたいな」
ボブ「・・・」