18話 異世界と海斗
「何でここにいるんだ?」
それが俺、篠崎海斗がこの世界にきて初めて発した言葉だった。
俺は今の自分がなぜこの世界にいるか分からない。
なぜなら、この世界は俺にとってゲームの中の世界なのに、今の俺の姿はゲームで使っている姿ではなく、現実世界の俺自身の姿だったからだ。
こんな事は普通なら絶対にありえない。
そう思った俺はすぐにログアウトしようと、メニュー画面を出そうと念じた。
だが、それは失敗に終わった。
「メニュー画面が出ない・・・・。なんで」
俺は呆然と呟いた。
いつもなら、戦闘以外ならどんな時でも出せるはずのメニュー画面を出すことが出来なかったのだから。
これでは、ログアウトが出来ないばかりか、このゲームを管理している会社に不具合報告すら出来ることできないのだから。
「ハァ~。まあ、フィールドにいるんだ。そのうち他のプレイヤーに出会うだろう。その時、そのプレイヤーに頼んで俺のことをゲーム会社に連絡してもらって強制ログアウトさせてもらえばいいか」
俺はまだ、この時の状況を楽観的に考えていた。
だから、重要なことに気づかなかったのだ。
本来なら自分の目に見えているはずの、自分のHPとMPの表記が存在しないことに。
そして、俺がそのことに気がついたのは他のプレイヤーを探し始めて15分くらいが経ち、モンスターが現れたときだった。
俺の目の前に現れたモンスターはフォレストウルフと呼ばれる、森の中に生息している狼のようなモンスターだ。
俺は早速、いつもの戦闘のように魔法を放とう構えた。
その時、俺はMPの表記が存在しないことに気づいた。
そして俺はいつもなら存在しているはずのものが、存在しないことに驚き隙が出来てしまった。
フォレストウルフはその隙を見逃さず、飛び掛ってきた。
俺は急そして、なことだったため、避けそびれ左腕を軽くだが、フォレストウルフの爪に引き裂かれた。
そして、俺はここでようやく現実を知ることになった。
通常ならVRMMOでは痛みなどの感覚は存在しない。
いや、正確には痛みなどの感覚を存在させることは危険なため、法律で禁止されているはずだった。
だが、俺の左腕には激しい痛みと出血が起こったのだ。
俺は、痛みのために泣きそうになったがそれを必死で堪えた。
そして、追撃で再び飛び掛ってきたフォレストウルフの攻撃を今度は的確に避け、反撃に蹴りをいれた。
フォレストウルフはそのまま後ろに吹っ飛び、そのまま大きな木に衝突し、魔素になって消えた。
俺はそのまま、地面にへたり込んだ。
そして俺は今の戦闘や現状を踏まえ、ある一つの結論を出した。
それは、この世界は・・・・・
「ゲームの世界じゃない。この世界は・・・本物なんだ」
そして俺は自分で出した結論を整理しようと、考え始めたがすぐに左腕の傷が痛みそれを中断した。
「さて、とりあえずは傷をどうにかしよう」
俺はそう呟いたが。
ここで一つあることに気がついてしまった。
魔法の使い方が分からない。
俺にとってこれはとても致命的だった。
本来ゲームの世界では、魔法の名前を唱えるだけで自動的に手が動き魔法陣を作り出し、そこから魔法を放っていたのだ。
だが、この世界ではそんなことが出来るはずは無い
なぜなら、この世界はゲームの世界に酷似しているだけで、ゲームの世界ではないのだから。
だが、その時俺にとって不思議なことが起こった。
それは、俺が使おうと思っていた魔法の魔法陣が頭の中で浮かんだのだ。
しかも、俺の指は迷うことなくその陣をすらすらと描き始め、ほんの一瞬でその陣を完成させた。
「《ヒール》」
俺はそのまま回復魔法の名を唱えると、その魔法はゲームの世界と同様にその力を発動させたのだった。
傷は見る見るうちに治り、傷跡一つ残らず完治した。
俺は今の現象がまぐれなのかを試すため、その場で様々な魔法を思い描いた。
その結果、いくつかのことが判明した。
まず、俺はゲーム世界のキャラクターが習得していた魔法を全て習得していること。
次に、自分の記憶力がなぜだか上がっていることに。
いや、正確には魔法の知識をかなり身につけているといったほうがいいかもしれない。
最後に、魔法を同時に7つまでなら別々の魔法を発動させることが出来ることに気づいた。
これらのことを踏まえ、俺は一つの結論にたどり着いた。
それは・・・
「ゲームキャラのステータスをそのまま引き継いだのか・・・」
俺は呆然とした。
もし、それが本当のことなら俺はとてつもない力を手に入れてしまったのだから。
なぜなら、俺のレベルはカンストしている状態だからだ。
そして、職業の方でも魔法職最強と名高い《アークビショップ》だ。
まさしく、アニメや小説などによくある異世界召還では珍しくも無い能力。
「チートか。まあ、ありがたいけど・・・・、なんか微妙だな・・・」
俺はこの世界では攻撃さえ受けなければ危険は無いことがわかったが、それと同時に異世界召還での醍醐味である自分を鍛えて強くなることが出来ないことを残念に思ったが、とりあえずこの場に止まっていても仕方ないと思い歩き出した。
そして、この後海斗は自らの力で本来は死ぬはずだった人たちの運命を変えることになる。
これが海斗と共にヘルパーを立ち上げ、行動を共にすることとなるシルフィスのとの出会いになるとも知らずに。




