11話 海斗の授業その2
昼休みも終わり午後の授業が始まるため1-S生徒たちは海斗が連絡したとおり、研究室にいた。
「・・・・・・・・」
「ねえ、イザベラまだ引きずっているの?」
イザベラはローザの質問に首を縦に振ることで答えた。
「まあ、あまり気にしないほうがいいと思うよ、気にしているとさっきみたいなことになるだろうし」
「気にしないほうがいい」
「そうですわ。切り替えが大切ですわよ」
「・・・わかってるけど。でも、師匠に迷惑掛けた・・・」
「まあ、落ち着いていつもどおりにやれば大丈夫よ」
「うん・・・。頑張ってみる」
イザベラがそう言うのと同時に研究室のドアが開き、白衣を着て眼鏡をかけた海斗が入ってきた。
それを見たイザベラは落ち込んでいた態度から一転、体をガタガタと振るわせ始めた。
そのイザベラの態度を見たセレーナたちは心配になり声をかけた。
「どうしかしましたの?」
「・・・・だ、大丈夫だよ。うん、たぶん。さすがに学校だもん、うん・・・・」
イザベラはうわ言の様に独り言のようにボソボソと呟きだした。
近くにいた生徒たちはイザベラの態度を見て、急にこの授業が不安になりだした。
海斗はまたイザベラの様子がおかしくなったことに気づくと、イザベラに声を掛けた。
「おーい、イザベラ」
「は、はい!」
するとイザベラは、昼休み前の授業とは変わり、すぐに反応した。
「まだ、体調が悪いのか?」
「い、いえ大丈夫です。本当に大丈夫ですから気にしないでください」
「そうか。なら、心配ないか・・・。まあ、あの時はこの姿でよくお前の授業を見ていたからな」
「し、師匠に聞きますが・・・・なんで着替えたんですか・・・」
「え・・・、そりゃあ、気分を変えるためだよ。さっきの時間は白衣の存在を忘れていたし。でもあの時だって、授業を教えている間は白衣だったろ。まあ、さすがにあの時はやりすぎたと思うから反省はしているぞ」
「・・・そうですか」
「うん、それじゃあ、始めようか。ちなみに今日は《ラストポーション》を作るからな。ちなみに材料はたくさんあるからいくらでも失敗してもいいが、失敗すると毒ガスが出たり、爆発したりするから注意しろよ」
『わかりました』
まず、海斗は始めに生徒たちに本物のアイテムとその作り方を見せた。
「こんな感じで《ラストポーション》は出来るぞ。ちなみに失敗例は危ないから後で後日映像結晶で見せるぞ」
「・・・・師匠、失敗例を見せる必要あるんですか」
「当たり前だろ。もし失敗した場合どうなるか知っておいたほうがいいだろ」
「たぶん、失敗したら、その身をもって知ることになると思うんですけど」
「まあ、失敗しなかった時のためにな」
「いや、ランクが高い魔法薬ですよ。失敗するに決まっているじゃないですか」
「さあ、それはどうかな?逆に失敗する奴がいるほうがおかしいと思うが・・・」
海斗は薄く笑みを浮かべた。
生徒たちは海斗の発言を不思議に思いながら、それぞれ班に別れ《ラストポーション》を作り始めた。
そして、その実験は海斗の言ったとおり、全部の班が《ラストポーション》の調合に成功した。
生徒たちは一発で成功したことを疑問に思い、男子生徒の一人が海斗に質問した。
「先生、どうして薬の調合が上手くいったんですか。僕らの班は少し作る手順を間違えたのに」
男子生徒がそう言うと、他の班の生徒からもそれぞれ手順を間違えたなどの声が上がった。
海斗はその生徒たちの反応を見て、笑みを浮かべながら言った。
「それじゃあ、お前らは今回の薬の調合は失敗したと言いたいんだな」
海斗がそう言うと、生徒たち全員は首を縦に振った。
「それじゃあ、なぜ《ラストポーション》が完成しているんだ?」
『・・・・・わかりません』
「それじゃあ、手順を間違えたと勘違いしただけじゃないのか?」
『それは違います』
生徒たちはそう言うと、それぞれの班が自分たちが調合の時にミスをしたところを海斗に話した。
海斗はそれを黙って聞いていた。
そして、最後の班が自分たちのミスを伝え終わると、海斗は口を開いた。
「よし、合格だ。よく出来たなお前ら」
生徒たちは海斗が急に自分たちのことを褒めだしたことに首をかしげた。
「今回の授業は《ラストポーション》が出来て当たり前だったんだ。なぜなら、実を言うとお前たちの調合用の鍋に入っていた液体は《ラストポーション》を作るための聖水じゃなくて、最初から《ラストポーション》だったんだ。あと、お前たちが《ラストポーション》を調合するために使った素材は・・・」
海斗が指を一回鳴らすと、教卓の上に置いてあった素材が全て消えた。
生徒たちは急に素材が消えたことに困惑した。
海斗は種を明かすために魔法陣を描き、魔法を発動させた。
すると、教卓の上に消えたはずの素材が現れた。
これを見せたことで生徒たちは素材が消えたことの種を理解した。
「全員気づいたと思うが、ここにあった素材は全部俺の幻覚魔法で作り出したまやかしだ。だから、実際は何も入れてなかったんだ。ちなみに調合中の薬の変化も俺の幻覚だよ。さて、種は明かした所だし、本題に入ろうか。なぜ、俺は今回この授業をやったかわかるか?」
海斗が問いかけると、生徒たちは全員今回の授業を振り返った。
そして、イザベラは今回の授業の目的に気づき海斗の問いに答えた。
「私たちのことを試したんですね」
「そのとおりだ。いやあ、本当に優秀すぎて驚いたよ。だって、普通は完成したならミスしたことに気づかないだろ。それに、気づいたとしても教師にわざわざ報告して点数を下げるようなことはしないだろ。でも、お前たちはちゃんと自分たちの失敗に気づき、なぜそれが完成したのかを不思議に思い、俺に報告しただろ。だから、点数をつけるなら満点をくれてやる」
海斗は顔にやさしい笑みを浮かべ、話を続けた。
「次の授業からはお前たちにしっかりと魔法薬の作り方をしっかりと教えてやるから安心しろ。あと、《ラストポーション》はさっき人数分配った瓶があるだろ。その中に容れて各自持っておけ。何かあった時に回復アイテムが合れば便利だからな。さて、それじゃあ今日の魔法薬の授業はおしまいだ。それぞれ道具を洗ってから後ろの棚に返して置くように」
海斗がそう言うと、生徒たちは道具の片付けを始めた。




