番外編 休日のギルド《ヘルパー》その2
昼食を終えた二人は、ヒューマのエリアを離れ、翼霊種が住む《シンファ》に移動していた。
移動手段は、海斗の使用できる魔法を使い、シンファの近く道に転移した。
「なんで、シンファまで転移しないのよ」
優希は自分が歩かされている状況に不満を持ちながら海斗に質問した。
海斗は苦笑いを浮かべながら言った。
「実は、《テレポート》の魔法は移動には便利だけど、他のエリアに行くことはそれぞれのエリアにある結界で封じられているため、移動できるとしてもそのエリアの結界内か、結界の外で結界が張っていない場所のみのためあまり使い勝手はよろしくない魔法なんだ。しかも、自分が一度言ったことがある場所のみしか発動しないオマケもついているんですよ」
「以外と使い勝手悪いわね」
「ホントだよね」
「まあ、いいわ。それよりも、これから行く、シンファってどういう所なの?」
「変わった都市だよ。知識欲が強い翼霊種が作ったからとてろおもしろいよ」
「具体的に言えばどんな風に?」
「天空都市・・・・かな?」
「え・・・・?」
「優希に質問だけど、お前ってこの国の地図を見たことがあるか?」
「一度だけあるけど、それがどうしたの?」
「それじゃあ、シルファの面積ってどのくらいか覚えているか?」
「ごめん、あまり覚えてない}
「まあ、シルファは地図上ではこの国で一番最小の領土であり、実際はこの国の中で最大の領土を誇っているんだよ」
「どういうこと?」
「だから、翼霊種は空中にエリアストーンを使って雲の上に広い土地を作ったんだよ」
「・・・そんなこと可能なの?」
「まあ、翼霊種は魔力量が剣士職でも人間の下位の魔法職と同等の魔力があるから、国民全てが協力すれば可能だな・・・・」
「本当に凄いわね。翼霊種って・・・」
「ああ、しかも知識欲の塊だから性格が変態な奴らが多いよ。まあ、ミローネに住んでいる翼霊種ならまだ少しはまともだがな」
「私、今とても帰りたい気分なんだけど」
「そんなこと許すわけ無いだろ。お前も俺の友人に会いに行くついでの道連れだ」
「遊びに行くんじゃなかったの」
「遊びに行くよ。正確には俺の友人(腐れ縁の悪友)の所に遊びに行こうと言ったんだ」
「腐れ縁の悪友って凄く不安なんだけど」
「大丈夫だ、究極過ぎるほど変態な所を抜かせば」
「激しく不安」
「ハハハ、まあ、悪いやつではないよ・・・・かなりめんどくさいけど」
海斗は肩を落としながら言った。
「じゃあ、何で会いに行くのよ」
「呼ばれたんだよ。行かないって方法もあったけどそれをやったら後が恐いんだよ」
「・・・・本当にめんどくさそうな奴と知り合いになったのね」
「ああ。まあ、いまさらいっても仕方が無い。諦めてくれよ」
「わかったわよ」
話を終えた二人は、シンファに入るためのゲートの前できた列に並んでいた。
優希はシンファに設置されているゲートを見ながら海斗に話し掛けた。
「今、思ったんだけどここまで《テレポート》を使えばよかったんじゃないの」
「ああ、実はもう一つだけ言い忘れていたんだけど、ゲートの付近の結界の名残があるみたいで、《テレポート》が使えないんですよ」
「本当に使い勝手が悪いわね。話を変えるけどこのゲートって種族ごとに形や大きさって変わってくるの」
「ああ、そのとおりだ。ヒューマはファンタジーでよく見るような形の大きな門だっただろ。シンファの場合はこのように神々しいアーチのような形になっているんだ」
「でも、これでモンスターの侵入を防げるの」
「魔力で結界が張ってあるから可能だし、しかもミローネを除く、全ての領地のゲートの中で最高の防御力を誇っているからな」
「本当に翼霊種って何でもありね」
「ハハハ、それを言うにはまだ早いと思うよ。さて、そろそろ順番が回ってきたし行くぞ」
海斗はそう言うと、門番をやっていた翼霊種の男に通行手形を見せた。
門番はそれを確認すると、門を開き二人を中に入れた。
門の中の光景は・・・・・・・意外と普通な町だった。
ヒューマとあまり変わらぬような町並みで唯一違うものは街の中央に変わった形をした塔がそびえているぐらいだ。
「・・・・普通の街?」
優希は首をかしげた。
「ああ、まだここは普通だよ。さて、それでは街の中央にある塔に向かおう。たぶん、待ちきれなくなって降りて来ているであろう天使様に会いに」
海斗はそう言うと、塔に向かって歩き出した。
優希は歩き出した海斗の後を追っていった。
優希は町の風景を見ながら、海斗の後ろについて歩いていた。
すると、急に前を歩いていた海斗が立ち止まったため、優希は海斗にぶつかった。
「ちょっと急に止まらないでよ。うん?どうかしたの」
優希は海斗の顔が少し青くなっていることに気がついた。
そして、海斗の目線の先を見るとそこには、一人の女性の天使が立っていた。
「き、綺麗・・・」
優希はそう呟いた。
優希が呟くのも無理は無かった。
なぜなら、その女性の天使の見た目は同姓でも惹きつけるような美しさだったからだ。
まだあどけなさが残っている童顔に眼鏡をかけ、身長は170くらいで胸は服の上からでも確認できるような大きさ、さらにその美しさ引き立たせるような手入れのされた白い二つの翼。
その姿を現すには、まさしく天使という言葉がぴったりな姿だった。
その女性は海斗の姿を見つけると、駆け寄ってきた。
「おーい。カイ君~」
海斗は頭に手を当てた。
女性は海斗のそばに来ると、嬉しそうな顔で話し掛けた。
「久しぶりだね、カイ君。半年振りかな?元気してた」
「ああ、久しぶりだな、マリベル」
「うん、そうだね。それで、後ろにいる子はカイ君の彼女さんかな?」
優希は急に話し掛けられ、困惑しだした。
「え、いや、その私は」
海斗はてんぱっている優希の変わり優希の説明をした。
「こいつは彼女じゃなくて俺の幼馴染だ。名前は小川優希だ。今、俺のとこで働いていだよ。まあ、今回は暇だったから連れてきただけた。で、」
海斗はそこまで話すとてんぱっている優希の頭を一回強めに叩いた。
優希は叩かれた痛みで、うずくまった。
「いった~。急に何するのよ」
「てんぱりすぎだ。一旦落ち着け」
海斗がそう言うと、優希は立ち上がり数回深呼吸した。
「ふ~う。落ち着いたわ。それで、海斗、この天使みたいな人は誰?」
「ああ、こいつはシンファのマスターで俺の友人のマリベル・エステリアだ」
「初めまして、マリベルです。仲良くしてね、ユウキちゃん」
マリベルは人懐っこい笑みを優希に浮かべた。
「ええ、こちらこそよろしく」
「フフ、ねえ、カイ君。ユウキちゃんをおもち・・・」
「却下だ」
「ええ~。いいじゃん、別に~」
「だめだ」
「そんな~。酷いことはしないよ。ただ、体の隅々をフフフ」
マリベルはその場で身悶えながら、笑い出した。
優希はマリベルの発言に引きながら、海斗に小声で話しかけた。
「か、海斗、マリベルのギャップが」
「ああ、それ以上言うな。俺も最初はあの見た目に騙されたからな。とりあえず、注意しておくが俺からあまり離れるなよ。あと、マリベルと二人きりになったらとりあえず、何か話して注意をそらせ。もし無理なら殺さない程度の魔法を放て。あいつ、意外とドMだから大丈夫だ」
「・・・・わかった」
「まあ、あの時よりは酷くならないと思うが・・・」
「あの時?」
「まあ、気にするな」
海斗はそう言うと、いまだに悶えているマリベルに向かって《ボルト》を放った。
マリベルは直撃しながらも、何事も無かったかのようにまだ笑っていた。
その光景を目撃した人たちは例外なく、皆ドン引きした。




