第9話 イザベラの恋心
海斗の自己紹介だけの授業が終わり、海斗が教室から出るとイザベラの周りに生徒たちが集まってきた。
イザベラは集まってきた理由がわかっていたので口を開いた。
「師匠のことについて聞きたいの?」
「ええ、そうですわ」
イザベラの質問に代表して、セレーナが答えた。
「彼は一体何者なんですの?あれだけの魔法の喰らっておきながら無傷だし、禁呪を教えてやるって言い出すし。妄言を吐くことが趣味なの」
「ハハハ、私もはじめて逢ったのなら同じことが言えていたのかもしれないけど、師匠の言っていることは本当よ」
「では、次の質問だけど、貴方とカイト先生はいつ出会ったの」
「ああ・・・・、それについて聞いてきちゃうか。できれば黙秘したいんだけど駄目よね」
「当たり前じゃない、正直には話なさいな」
「・・・・分かったわ」
イザベラは肩を落としながら話を始めた。
イザベラSide~
それは、私がまだこの学園に入る前の話だ。
私はこの頃はある一つの科目を除いては次期のマスター候補として完璧であったが、その一つの科目が出来ないせいで周りからは馬鹿にされていた。
その科目は魔法である。
魔法は女である私にとって武術よりも重要になり、将来身を守るためにも必ず必要であり、そしてマスターになるのであるのなら他の者よりも優秀でなければいけなかった。
でも、私はいくら覚えようとしても覚えられず、父に家庭教師として私の指導をした魔道士全員にも見捨てられた。
そして、私は軽い人間不信になりかけていた時、父が魔道士ではない新しい家庭教師を連れてきた。
その人は、父や他のマスターが頭を悩ましていた、ミローネの夜に複数のゴーストが出没した事件を一人で解決した、若手の冒険者だった。
その人の名前はカイト・シノザキ。
私にとって良き師匠であり、優しくも時に厳しい兄であり、そして私にとっての初恋の相手だ。
このあたりでは珍しい、黒髪で黒い瞳をして、とっても変わった雰囲気の人だった。
見た目は、本当に冒険者なのかと思うほど特徴があまり無く、しいて言えば笑顔が優しい人だった。
でも、見た目とは裏腹にその人は私に今まで指導してきた学校の教師や家庭教師の魔道士とは比べ物にならないほど強く、豊富な知識を持っていた。
そして、その人の指導は他の人の指導とは違い、とても変わった方法で教えてくれた。
師匠は私に魔法以外にも師匠が知っている学校では教えてもらえないような知識や人との付き合い方を学んだ。
そんな中でも一番記憶に残っているのは、師匠の好意で長期休みの間に一回だけ師匠といっしょに課外授業と言う名目で冒険に連れて行ってもらったことだ。
たぶん、私の人生であの時ほど心が躍ったことはなく、今後の人生でも無いと思う。
そして、今の私がいるのは全て師匠のおかげなのだ。
だから、私は師匠にあの頃から成長した私を見てもらいたい。
そして、師匠にとって最高の弟子であり、師匠を支えるパートナーになることが今の私の夢なのだ。
Side終了
イザベラは自分の過去と海斗との出会いを簡潔に説明した。
「と、言うのが私と師匠との出会いよ」
「・・・以外でしたわ」
「何が?」
イザベラはセレーナの発言に首をかしげた。
「このクラスの中でもローゼと同等の魔法の知識があるあなたが昔は魔法が駄目だったなんて」
「ハハハ、まあ、魔法関連は全部師匠のおかげで何とかなっているようなものだからね。もし、師匠と出会ってなければ私は今ここにいないし。それに、師匠と出会えたからこそ私は今の私になれたのよ。だから私はまた師匠から学べることが嬉しいの」
「よくわかったわ。説明してくれてありがとう」
「別にいいわよ」
「あ、それじゃあ、僕とガイとローゼからも一つ質問していいかな」
「何かしら」
「話を聞いていて僕たちは気になったんだけど・・・イザベラってもしかしてだけど、カイト先生に惚れてる」
「え・・・・」
イザベラはそう言うと、顔を真っ赤にさせた。
「ど、どうしてそう思ったの?」
「だって、カイト先生のことを話している時のイザベラってなんだかいつもと違っていたからね」
「うん、俺もそう思った」
「私もそう思ったんだけど違うの?」
三人がそう言うと、他の生徒たちからもどうなのか聞かれイザベラはさらに顔を真っ赤にさせ、頭から湯気が出始めた。
「いや、わた、わたちは、べちゅにそんにゃ・・・・」
イザベラは凄く動揺し、呂律が回らなくなってきた。
それをからかうかのようにローゼが言った。
「動揺しすぎて呂律回ってないわよ。本当に好きなんだ」
「・・・・う・・うん・・」
イザベラは潔く認めた。
ローザは続けて質問した。
「どういったところが好きなの」
「おちこぼれだった、私を見捨てなかった優しいところとか、意志が強いところとか、博識なところとか、頼りになるところとか、他にも色々」
「それじゃあ、付き合いたいの」
「当たり前じゃない!3年前から好きだったんだから。ちゃんと師匠に・・・その・・す・・・」
イザベラがことばを続けようとした丁度その時、教室に海斗が入ってきた。
生徒たちはそれを確認するやいなやイザベラの周りから自分の机に顔が真っ赤なままのイザベラを残して移動した。
海斗は生徒が急に移動したことやイザベラの顔をが真っ赤なのを不思議に思い、イザベラに質問した。
「おい、イザベラ。何かあったのか」
イザベラは海斗に声をかけられ、ドキッとしたがすぐに返事を返した。
「べ、別になんでもないです。大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないだろ。顔が真っ赤だし」
海斗はそう言うと、イザベラにの近づいた。
イザベラは海斗が近づくたびに、さっきのクラス中に海斗が好きなことがばれてしまっていることや自分の気持ちをしっかりと理解してしまったために、さらに顔が真っ赤になっていった。
海斗はそんなイザベラの心境を知らないためイザベラの机の前まで移動し、その顔を覗き込んだ。
イザベラは海斗の顔が近くにあることが耐え切れずそのまま失神してしまった。
「ちょ、おい、イザベラ。おい、・・・・ハァ~、仕方ない」
海斗はそう言うと、イザベラを背中に背負った。
「俺は、イザベラを保健室まで連れて行くから、それまで自習していろ。内容は魔法陣について知っていることを纏めることだ」
海斗はそう言うと、イザベラを背負いながら教室から出て行った。




