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日常生活の次に 4

 腕時計を見ると8時45分。向日葵の保育園へは余裕を持っての登校だが百合は完璧に遅刻だ。

 にも関わらず百合の足取りはゆったりとしたものだった。

 走ればお腹が空くし疲れる。そんなのは寝不足の体に良くない。

 百合の中では授業に間に合えば遅刻ではないのだ。

 教室に入るとちょうど1時間目が始まる前だった。

 もはや2ヶ月毎日のように行われた光景なので先生も生徒もなんの反応も示さない。


「もう少し静かに入れないのか」

 ――――この生活指導のハゲ頭をのぞいて。

「…まだ休み時間中ですので授業の妨げにはなっていないはずですが」

 そう言い返すとハゲ頭の相川は小さく舌打ちした。

「席に着きなさい。それから昼休み職員室に来るように」

 相川はそう言うと荒々しく「起立!」と怒鳴った。

 ガタッと席を立った隣の男子がこれ見よがしにため息をつく。


 お前のせいで相川の機嫌悪くなったじゃねぇか


 無言の言葉が確かに百合の耳に届いた。

 そんなの知ったことか、と百合は教科書を開いた。

 教師の機嫌が悪かろうがよかろうが、授業さえきちんとしてくれるなら百合には何の問題もない。

 教師が生徒を叱れるのは質問に答えられない時か私語をした時だ。予習復習をして授業中黙ってれば教師の機嫌がいくら悪かろうと関係ない。

 相川が黒板に連ねていく文字の羅列を理科しやすいようにノートをまとめる。

 クラスメイトに良く思われてない事は知ってる。

 地味のくせに遅刻の常習者。

 休み時間は常に机に座って勉強し、放課後は誰よりも先に教室を出る。

 この小さなコミュニティで輪を乱す者はのけられる。

 かつては百合もその中の一人として生活していたのだからそのシステムはよくわかる、けれど。

 そんな事、どうでもいい。所詮は小さなコミュニティ。

 そんなものの調和よりももっと大切なものが百合にはあった。


「椎名!」


 名を呼ばれ顔を向けると相川の憎らしい笑みと目が合う。

「ボーっとしているとは余裕だな。ならこの問題を解いてもらおうか」

 出そうになるため息を押し殺して黒板の前まで移動し、正しい答えを記入していく。

 相川はつまらなさそうに顔を歪め、そのあまりの露骨さに百合も不機嫌になる。

 

 もう少しうまく仮面をかぶれないのか、仮にも教師だろ貴様。


「仁科!問4の答えはなんだ!」

「えっと…ろくぶんのにるーと?」

「アホかお前は!授業で何を聞いていたんだ!」

 完全に百合のとばっちりを食らう羽目になった仁科は哀れにも授業終了まで相川に怒鳴られ続けた。

 赤に近い茶髪やシルバーのアクセサリーも八つ当たりの対象にしやすかったのだろう。



「災難だったねー京。誰かさんのせいでさぁー」


 授業終了後、わざと聞こえるような猫なで声が耳障りだったが無視する。

「誰かさんって?」

 仁科はさも不思議そうに尋ねた。周りを囲む女子が「キャー」と叫ぶ。

「何とぼけてんのぉ?それわざと?京ってザンコクー」

 愉快そうに笑う甲高い声に仁科ははっきりと言い返した。

「本当に何言ってんのかわからないんだけど。だって間違って怒られただけの話じゃん。誰のせいって、俺のせい以外にありえんの?」

 困惑と笑顔を融合させた表情の仁科に、

「んもー!京らしいっていうか」

 と評価が下される。


 あほか。百合は一度だけそう思うと思考を切り替えた。

 次の授業の予習と以前の復習。1秒たりとも無駄には出来ない。

 そんな百合にとって昼休みに呼び出されるのは不満だった。



やっと椎名家以外のメンバーが…笑

道のりは長いです

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