日常生活の次に 3
―――――――――――嫌な夢だ。
朝、3時半に起きた百合はそう思った。
記憶とも事実とも違わない夢。それは悪夢に近い。
すぐ隣では向日葵の規則正しい寝息が聞こえる。
百合は夢の住人の頭を優しくなでた。
小さい小さい、生き物。
百合はこの時間が好きじゃない。泣きそうになってしまうからだ。
「ひま」
妹の愛称を呼ぶ。目を覚ましてしまわぬように、小さく。
比べるな、なんて無理な話だ。
重ねるな、なんてどうやって。
だって、私は幸せだったのに。
父さんは明るくて、母さんは優しくて、あたたかい布団に美味しいごはん。
当たり前だったのに。
どうして、この子にはないの。
どれかひとつでもいい。どれかひとつでもあれば、この子はまだ救われる。
「…ん」
向日葵が寝返りをうって百合は我に返った。
瞳にたまった涙をぬぐう。
「…行ってきます」
バイトの時刻が迫ってきていたので百合は家を出る。
早朝のバイトは駅のトイレ掃除だ。新聞配達でもよかったのだが、あれは体力がいる。
体力がいるということは、お腹が減るということだ。
そんな理由から、新聞配達はやめた。
たいてい百合は一番乗りだ。その日もそうでそのまま着替え道具を携え現場に出る。
まだ始めて2か月程度なのだが手慣れたものでさっさと終わらせ7時前には帰宅する。
向日葵はまだ眠っていた。
「ひま、起きて」
「ん~」
「ひま」
ぐずる向日葵を起こし朝食の用意をする。
全国的に有名なコンビニではなく地元民でさえ聞いたことがないような名前のコンビニで仕入れてきた耳パンをとりだす。一袋がやたら大きくてそこにたくさん入っている。それでいてお値段100円なんとたったの1コイン。
もちろん店頭に堂々と売ってるわけではなくお得意様限りの裏メニューだ。
耳パンを角切りにし、チーズやキャベツを一緒にあえる。
「ごはんだよ」
「いただきまーす」
チーズが大好物の向日葵はさっきまでの眠気はどこへやらで美味しそうに食べ始めている。
身支度を整え向日葵の保育園の時間に間に合うように家を出る。
「ゆりお姉ちゃん、今日は何時にお迎え来れる?」
「そうだねぇ、昨日と同じくらいかな?」
「やったぁ」
向日葵が嬉しそうに飛び跳ねる。
「どうして『やったぁ』なの?」
「そしたらマヤちゃんといっぱい遊べるもん!」
顔いっぱいに笑顔を張り付けて向日葵は言った。百合と同じ黒くて長い髪が左右に揺れる。
「そっか、よかったね」
「うん!!!」
それは百合にとっても嬉しい報告だった。一日の半分以上を保育園で過ごすわけで、そこが楽しいというのならそれ以上のことはない。
「お願いします」
「はーい。ほら向日葵ちゃん、お姉ちゃんに行ってらっしゃい言おうか」
「行ってらっしゃーい!お姉ちゃーん!!」
バイト情報は確かじゃありません
高校生で駅のトイレのバイトできるのか知らないし
そもそもバイトであるのかもしりません
体力を使わない、みたいな描写もありますがそんな事も思っていません
不快な思いにさせてしまったらすみません
次話から百合ちゃんの学校生活になります