デート否より(1)
新谷のデートの話
若干書き加え、修正版しました。
順調!!!
新谷は映画館の出口付近で思った。新谷はデート相手が化粧室から出て来るのを待っている。
「ごめんねぇ~待った?新谷くん」
今朝、噴水の前で彼女と待ち合わせをしていた時と同じ台詞をまた聞いたので、新谷は変な気分になった。デジャブ?
「いやいや、大丈夫だよ~サヤカちゃん~じゃあ行こうか?」
竹内沙也加、それが新谷のデートの相手だ。新谷はまだ下の名前で呼ぶことに恥ずかしさがあったがそう呼んだ。
「うん、あ~ありがとう」
サヤカは映画のパンフレットの入った袋を新谷から受け取ると、並んで歩き始めた。
女の子と並んで歩く、なんかいいなぁ~、
新谷も少し感動を覚えながら歩きだした。
「昼ごはんどうしようか?」
彼女が口を開いた。
「安くて、おいしいパスタの店があるんだけどどう?」
新谷が遠慮がちに言った
「いいわね、行きましょうよ」
新谷は、彼女の快諾に安心すると、そのお店を目指した。
サヤカは現役生だ。新谷がこの大学を入るのに2年費やしたのに対して、ストレートで入学した。二歳年下の彼女は、女子校のお嬢さま学校出身だ。雰囲気やしぐさ、話方に、どこかおっとりとした印象を受ける。
映画館から15分ぐらい歩くと、新谷の言うパスタ屋がある。 途中、ラーメン屋『テンカ』の前を通ると、店の前で奥さんが掃除をしていたが、目線を合わせずにサヤカをリードしながら通り過ぎた。
他人のフリ、他人のフリ、なぜか気まずい。『テンカ』通り過ぎると、背後から奥さんの「かわいい~」 と言うささやきがが聞こえた。
どちらを指すコメントなのか、新谷は知るよしもなかった。
パスタ屋に着くと、感じのいい女性店員が2人に応対してくれた。2人は入り口から一番離れた窓側の席に通してもらった。サヤカは壁側の奥に座り、新谷は観葉植物を背に、椅子に座った。観葉植物は隣の席との境界線を作っている。
メニューを見て、2人ともパスタのランチを頼み、水を一口飲むと新谷はサヤカと向き合った。
「席空いててよかったね。でも喫煙でよかった?禁煙はランチタイムで混んでたからこっちにしたけど…」
新谷が言った。
「いいよ~だって暑いし早く座りたかったもん。それにここ私達と後ろの席の人たちしかいないみたいだし…ちょうどいいよ」
「そうだよね~タバコ2人とも吸わないもんね~」
新谷は安堵の顔を浮かべている。冷水がおいしい。
「…それにしても、映画おもしろかったね~」
「うん、新谷くんの言った通り、あのアクション最高だったよ」
サヤカが映画のパンフレットのページをめくりながら言った。
「でしょ~あの電車の爆発シーンとか凄かったよね~」
「うん、すごかった。ヒロインの女のヒトきれいだったね」
「うん、そうだね~そういえばね、あのヒロインの女の人と、この映画作った監督、映画作ったあと結婚したらしいよ」
「へぇ~そうなんだぁ~いいなぁ~そういえばあの車のシーン…」
話はつきなかった。
新谷はサヤカと話ながら、ジローのことが頭に浮かんだ。
新谷!初めてのデートの映画は、恋愛映画よりアクション映画とかの方がいいぞ!ジローが言っていた。
恋愛映画は、ヒトによって価値観も違うし、かなり見方も違うからなぁ~だから、場面とか感想を共有できるアクションに限るぞ~デートの映画は!
ジローの言葉に耳をかして正解だったな、と新谷は思った。
そして、脇で堤が、いやいや~恋愛映画だろ!、なんていっていたがそれも信じなくて正解だったと思った。堤が恋愛映画で、ゴリ押ししてきたのは言うまでもない。
女の子と面と向かって、2人だけで話す、新谷はそれだけでうれしい。ジローに感謝だ。
「サヤカちゃんはさぁ、他に好きな映画とかある?」
新谷は訪ねた。
「う~ん、なんだろう?考えるね」
サヤカは真剣に考える仕草をする。かわいいなぁ~新谷は涙が出そうだった。水を口に運ぶ。
「アタシはね、あの時、妊娠してたのよ!!ねぇ~わかる?!わかってんの?」
サヤカが映画について考えてる姿を見ているその時、不意に新谷の背後の隣の席から、女の怒る声が聞こえた。穏やかだが、静かで大きな怒りをその声に感じる。
新谷は肩に力が入り、背筋が少しだけ伸びる思いだ。サヤカは考えることに夢中で、その台詞は聞こえなかったらしい。
まだ新谷の背後から声が聞こえた。男性に話しているらしい。
「ワタシはね、降ろしたのよ、しまいには、アタシを捨てて他の女のところに…」
背後の女の声がそこで途絶えた。
新谷は、後ろにいるカップルの会話に自然と聞き入ってしまった。…妊娠?…おろす?…中絶?
恋愛一年生の新谷にとって、それらの言葉はどこか怖くて、聞き慣れなかった。
表情が強ばる。
「どうしたの?大丈夫?」
今まで考え込んでいた壁側に座るサヤカが新谷を心配そうに見る。
「あ~ああ大丈夫だよ。料理遅いなぁとおもってさ~
それでどんな映画?」
「やっぱり、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』かな?主人公がカッコいいし、タイムマシーンに乗ってみたいわ」サヤカが笑顔で言う。新谷にだいぶ打ち解けている感じた。
「確かに~あの車、カッコいいよね~… あのさ…ちょっとトイレ、行ってくるね~」
「はいはい」
サヤカはさっぱりとした雰囲気で返事をする。
水の飲み過ぎたかな?新谷は思った。
観葉植物て隔てられた隣の座席の前を素通りした。座席にはスーツを来た知らない男が座っていた。
通路を抜け角を曲がり男子トイレに向かう。途中で店員とすれ違った。禁煙席と喫煙席、禁煙席は騒がしいのに対して、喫煙席はどこか人がまばらだ。
分煙ってやつか?喫煙者は肩身が狭いだろうな、と新谷は思う。
新谷は用を足すと、鏡で自分の身なりを確認した。
「よし!」
新谷は鏡に写る自分に言い聞かせた。
身なりなんてなぁ~清潔で最低限でいいんだよ!着飾り過ぎはかえって見苦しい、新谷の脳裏にまたジローの言葉がまた浮かんだ。今日はよく出てくるなぁ、新谷は思った。
堤も何かをお酒の席で言っていた。なんだったか?人の気持ちがどうとか…新谷は思い出せない。
見るからに軽いトイレのドアを開き、新谷は店内に出た。さっきは気づかなかったが、トイレとレストラン室内の温度差に新谷は気が付いた。少しクーラーが利きすぎて寒い。
新谷はさっき歩いて来た通路を抜けて、座席の間を抜ける。誰かがタバコを吸ったらしい、臭いがした。これが本来の喫煙席か…新谷は鼻を少しだけ動かす。
奥にサヤカの待つ、席が見えた。その手前の席は、さっきの新谷のついていけない深刻な話をする男女がいた。男の顔はさっきも見たが、向かい合った怒る女の顔が自然と素通りする新谷の目に入った。
……!
…ショートヘアーに、胸を強調した服 たかがランチでそんな格好で歩いていいんですか、確かにナイスバディですけど…と後輩の新谷でも言ってやりたくなる、杏子がそこにいた。
えっ?えっ?えっ?
新谷はさっき頭に浮かんだ聞き慣れない言葉に押し潰されそうになった。
動揺を隠しながら、奥の自分の席に新谷は戻る。
テーブルには既に2人分のパスタが並んでいた。出来立てだ。湯気がでていた。いい匂いだ。でもなにか他の臭いも…。サヤカは新谷が来るのを待っていたらしい。
「お帰りなさい!ちょうどよかった~さっき料理、きたから待ってたの」
サヤカは笑顔で応じた。やっぱりいい子だなぁ~新谷は杏子のことを忘れて感動した。
「それじゃぁ~いただき…」
新谷はサヤカの右手を見た。
えっ?
タバコ?
「いただきます!」
元気よく言うと、サヤカは灰皿にタバコを押しつけるとパスタを食べ始めた。おいしそうだ。
タバコを吸うのは個人の自由だよ…
でも自分の好きな女の子が目の前で吸われるのはなぁ~、自分の知らないサヤカの以外な一面に新谷は動揺した。
杏子のこともあるがサヤカのことも、新谷には荷が重すぎた。
…あれ?サヤカちゃん、未成年?
新谷は最後に思った。