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ブリーフィング

ラーメン屋の新谷


書き加え、修正版です

「どうぞ」



カウンター席に丁寧にガラスのコップが置かれた。コップには四角い氷が三個入っており、麦茶が注がれている。氷は3つまでと、この麦茶を置いた女性は決めている。このお店の取り決めだ。カップを置いた女性はこのラーメン屋「テンカ 」の店長であり夫であるおじさんのいる厨房に戻っていった。

麦茶を受け取ると、新谷しんたには一気にそれを飲み干そうとした。喉がなっている。ゴク、ゴク、その喉を見ながらカウンター越しの厨房で、おじさんはラーメンの下ごしらえをしていた。グツグツと鍋が煮え、湯気が上がる。



「…今日か?」

おじさんが訪ねた。


「…はい、そうです」

新谷はゆっくり、静かに答えた。


「同学年か?」



「そうです。ただ、彼女は現役生なので僕より、年下です」



「なら…向こうも緊張してるさ~この前の小さな嘘は、水に流してやるからさ、女の子とデート、楽しんでこいよ!」


おじさんは、厨房から身を乗り出し、カウンターに座る新谷の肩を叩いた。新谷の心には大きな期待と、わずかな不安が渦巻いていた。

 しかし、「女の子とデート」、その言葉だけで新谷は幸せにだった。表情が緩む。





 4ヶ月前、新谷は大学のサークルの先輩達と飲み会の帰りに、このラーメン屋「テンカ」に連れてきてもらった。その時の奇妙なやりとりと、その場に居なかった先輩のメールの一件があり、それ以来、新谷達はここの夫婦と仲良くなった。今では店の常連客だ。



高橋タカハシくん達はどうしたの?」

 厨房の奥からさっき麦茶をおいてくれた奥さんの声がした。新谷から見ると、ラーメン屋のおじさんが「おじさん」なのに対して、奥さんはどちらかと言うと「おねーさん」に近い。新谷達、大学生に年齢が近いのだろう。おじさんもそれが自慢らしい。


「ジローさん達ですか?…あの人たちはテストの再試検です。ジローさんと、堤さんがです。山下さんは、2人の先生ですよ~」


新谷は奥さんの方を見ながら答えた。絶対にテレビでよく見る女優さんに似てる。やっぱり美人だよなぁ~、この4ヶ月、目を合わせる度に新谷は思った。


「あははははっ、そうなの?大丈夫なのかしら?失敗したら留年よね~」


「そうですね。でも点数落としたら、再試やって受かれば単位もらえるからいいとおもいますよ。チャンスも多いですし」



「新谷くんは大丈夫だったの~?」


奥さんはゆったりとした口調で話した。

「僕は一年生なので、まだ勉強そんなに難しくないので…今回は再試なしです。だから今日、その…デ~トに行けるんです」


新谷は、少し照れくさい。


「フフっ、そう。新谷くんもその相手も頭いいのね。楽しんでね」

奥さんが微笑む。唇のそばにある小さい黒子があるのがわかる。




「…おう!そろそろ時間じゃないのか?」

おじさんが言った。



「ほんとだ。待ち合わせ、駅前の噴水前なんですよ」

新谷は立ち上がった。すると『冷やし中華始めました』の壁の貼り紙の隣に貼ってあるビールのポスターが新谷の目に止まった。日焼けしたビキニの水着美女が、こちらに背を向けて振り向いている。右手に持たれたビールは美味しそうだ。新谷は、「初めてのデート楽しんでね!」

そのポスターの美女にも、そう言われてる気がした。

 新谷は店のノレンをくぐると小走りで炎天下の外に出て行った。


「初めてのデートかぁ~かわいいなぁ~ふふふ~」

新谷が出て行った後、奥さんが微笑んで呟いた。


「かか、かかか、かわいくなんかねぇーよ!バカやろう!俺の方が、か、かわいいね」

おじさんは口をとんがらせた。


「なぁに、張り合ってるのぉ~」



おじさんの動揺を隠せない精一杯の虚勢に、奥さんは微笑んだ。

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