表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

走る、男 ~序章~

書き加え、修正しました。

3日坊主で終わるだろう




 彼の友人達はそう言った。



 今の年齢でポッコリと出たお腹は正直、まずいらしい。付き合って、二年になる自慢の彼女にも「これは不味いよ!食べても美味しくなさそうだよ」と指を指されて言われた。その時、男はダイエットを決意した。まずはジョギング!男はそう思った。

 まだ暑い8月の朝から男は痩せるため、毎朝のジョギングを習慣にしようと努力を始めた。自慢の彼女には秘密だ。

今朝はいよいよ3日目。まだ残暑の残る季節だが、早朝はいくらか涼しいのが救いだ。

 午前7時過ぎ、男はタオルを太い首に巻いて、近所の公園を通り抜けようと、いつものコンビニの角を曲がった。男の顎はほぼ二重顎、出過ぎたお腹は上下に揺れている。男はジョギングコースに入っている公園の入り口で足を止めた。人影が2つ、公園の真ん中付近に見える。背の高い男と、女のようだ。

咄嗟になぜかジョギング中の男は、木の影に隠れた。2人の男女を盗み見る。



 背の高い男は、こちら側を向いて話しているのでどんな表情でいるのかがわかる。知らない顔だな、男は思った。女の方はこちら側に背を向けており、よくわからない。


 背の高い男の表情を見る限り、どうやら女を諭しているらしい。なんとなく雰囲気でそれが伺えた。次第に女の方はそのやりとりに、腹を立てたらしく相手を罵倒する。

 

 俺の彼女は、あんな風に怒鳴らない、ランニング中の男は思った。



しばらくすると背の高い男は、女と向き合った。その大きな体の大きな手を広げると彼女をチカラ一杯、そしてどこか優しく包容した。

 木の影から一部始終を見る男は思わず、おおっ、と感嘆の声を出しそうになった。



 2人は包容が終わると、しばらく見つめあっていた。

 男はこの公園を抜けて、反対側にある友人のアパートの前を横切り、自分の家に戻る。そのコースをこの2日間、走っていた。3日坊主とは、言われたくない。

 しかし、男女のこういった甘い雰囲気の中を横切っていくのは、正直、気が引ける。



「俺の決意は堅い…」男は一言、呟くと滴る汗を拭いた。そうだ!走り抜けよう。2人を振り切るんだ。気まずいけど…



一歩を踏みだそうとした瞬間、さっきまで背の高い男と見つめあい言葉を交わしていた女が、こちらに振り返った。男は自分の存在を悟られぬよう、少しだけ身をかがめ、女を値踏みしようと目を細めた。ショートヘアーに胸元を強調した服、たかが朝の散歩でその格好はないだろうと言いたくなる。その格好は、俺の前だけにしてくれよ、男は自慢の彼女にいつも言っている。自分の彼女の見覚えのある風貌に、男は動揺を隠せない。

 見間違いではないか?動揺を隠せない男、ツツミは思った。



「…杏子あんず?」


汗塗れの手で、メガネケースからメガネを取り出し、装着すると自分のポッコリお腹を触りながら、 堤は自慢の彼女の名を弱々しく呟いた。

 


人の気持ちほど…


変わりやすいものはない。



 いつだったか、友人に言われた言葉を堤は思い出していた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ