スティーブ・アラン事件帳
スティーブ・アラン事件帳
監禁診療所
登場人物
スティーブ・アラン 探偵
ジム・モートン 編集者
メグ・スチュワート 主婦
ライオネル・スチュワート 医者
ミニー・スコット 看護婦
スティーブ・アランはロンドンのラムベスに住む探偵である。彼はこれまでの人生でいくつもの怪奇な事件を捜査し解決に結びつけてきた。今回はそのうちの一つの事件をライターのジムが記し、新聞に投稿した。ロンドンには多種多様な人種、職業、家庭を持つ人々が雑多に交じっている。今回もその雑多な人間関係の中に起こった事件である。
ハイヒールのコツコツという音が階段に響くと、すぐにスティーブ・アラン探偵事務所の扉をノックする音が部屋に聞こえた。スティーブは葉巻の火をさっと消し、灰皿に置いたら、扉を開け「ようこそ、我が探偵事務所へお越しいただきました。まずは、お名前からお伺い致しましょうか?」と堂々とした態度で声をかけた。
「ケンティッシュ・タウンからやってまいりました。看護婦のミニー・スコットです。私はライオネル・スチュワートメンタルクリニックで働くものです。」と丁寧に言った。「と言うことはスチュワートさんが院長ですね。」とスティーブ。「ええ、ライオネル・スチュワートの元で働いております。」とミニー。
「当クリニックではロンドン中から様々な心因性の病気のお客が受診に来ますが、隣町のイズリントンからも多くの患者が参ります。その中にですが...」「その中に?」「その中に不思議なお客がいるのです。」「お伺いしましょう。その不思議なお客とは?」「名前を言わないのです。その女性は怪我をしていて、足首に。ミミズ腫れなので先生は軟膏を塗って、処方箋として、その軟膏を出しました。」
「もう来ないだろう。ムカデか何かに気づかずにやられたのだろう。と先生は言いました。ですが、その女性、3週間後もやってきて次は反対の足首にもミミズ腫れができてるのを見せました。」
「私はおかしいと思っています。そこでスティーブ様にこの方の背後を探ってほしいのです。」「かしこまりました。私がお調べしましょう。」
あなたの出勤日は何曜日か決まっておられますか?」「ええ、金曜日です。」
「私はまずはクリニックを調べに行きます。あなたのいない日に。」「嫌な予感がします。宜しくお願いします。」「では、後日また。」
金曜日、午後、スティーブはクリニックへと向かった。クリニックはロンドン北部、ノーザンラインにある駅でケンティッシュ・タウンと言い、砂埃が舞うあまり繁華ではない住宅街である。駅近くも商店は僅かなアラビックの経営するインターネットカフェや不動産屋ほどしかない。
彼はその一角にクリニックを発見した。扉を通り受付の女性に聞かれた。「診察をご希望ですか?」「頭が痛いのです。風邪かなと思い来ました。風邪も診ていますか?」「ええ、結構ですよ。」と女性。スティーブは案内された待合室の革張りのベンチに腰掛けた。素早く院内を見回し何かを探すスティーブ。受付とベンチの部屋は区切られており壁を曲がって横に部屋が折れている。トイレは受付の部屋に、ベンチの方には小さな換気扇と患者たちの活動であろう切絵や版画が掛けられている。
壁の方に収納機能があり何か小さな鍵のかけられた引き出しが3つほどあった。スティーブは引き出しに目をつけて、少しいじって見た。鍵はあかず、だが、中にはどうやらカチャカチャとなる金属性のものがある。鍵だろうか?バレないようにベンチにかけたスティーブ。
すかさず、診察室の扉を越えて男性の声が。「スティーブ・アランさん、どうぞ。」「はい。」といい返事をして、中へ入るスティーブ。
黒いひび割れた革張りのチェアにかけた院長らしい男が声をかけた。「今日はどうなされましたか?」「風邪をひいたかと思います。頭痛に効く薬か何か出していただきたいのですが。」「まずは熱を測りましょう。ちょっと待ってて下さいね。」そう言って院長は受付の部屋へ体温計を取りに行く。スティーブはさっと周りを見回し何かないか探す。金の首飾りが置き鏡の横に垂れていて その近くに銀の腕時計とハンドクリームが3つ並んでいる。その他には、飲みかけのコーヒーマグとスプーン、砂糖の空が丸いくず入れの中に。壁の方には本棚があり心理学関係の厚手の書籍がまばらに並んでいる。
体温を測っている間、彼はこの近所の街のことを語り始めた。「この辺りは、何も無いですよ。パブもないし、ライブハウスもないし、上手いレストランもない。ずっとここに務めてますが、インターネットカフェにすら行っていません。私はここの前は大学病院にいました。熱はないようですね。頭痛止めだけ出しておきましょうか?」そう言い彼は隣の受付の部屋へ処方箋の指示をしにいったようだった。その間、彼は隣の部屋へ続くもう一つの扉を発見した。さっと、行って音を立てないように開くかどうか試した。扉には鍵がかかっており開かない。それだけだった。
後日、再びミニーが探偵事務所へやってきた。「どうですか、何か分かることありましたか?」と不思議にも楽しげな微笑を浮かべて訊いてきた。「ミニーさんには院長さんの部屋の奥にあるもう一つの部屋を見てきてほしいのです。そこに何か不思議な様子がないか。くまなくですよ。」そう言うとミニーは頼もしそうに答えた。「かしこまりました。またやって参ります。では後日。」彼女は今回の不可解な客の話をさほど恐れてはいないようだった。
数日後、ミニーが奥の部屋の様子を調べてやってきた。「どうでしたか?」「奥の部屋は緊急用の休憩室となっております。ベッドが4台と注射器が入った引き出し、空気清浄機や酸素吸入器などがあります。」「なにか不思議なものはありませんでしたか?」「特にないのですが、まあ、目についたのは白いベッドの鉄柵の錆のような跡と、ベッドの四つ足の引きずったような跡が床にそれくらいですかね?」「分かりました。参考になりました。今回はこれで結構です。ありがとうございました。」
スティーブは再び頭痛でクリニックへ向かった。今度もミニーが休みの金曜日。再びの診察。ライオネル医師はスティーブを診察室へ呼び込み。今回はどうしたかと、訊いた。スティーブはまたまた頭痛で薬を貰いに来たと言った。
医師は快く受け入れ片頭痛には様々な要因が考えられると言う。
心因性、風邪、脳の病気などだ。
医師が処方箋を指示しに受付へ行くと、スティーブはまた瞬時に周辺を探る。今回は見慣れない白いプラスチック製のボックスがコンセントにハマっているのを見つけた。
スティーブは「ほほう。」と小声を漏らした。
医師は戻ってきてスティーブに挨拶を交わし、帰宅を促した。
スティーブは帰るふりをしてクリニックを出たが、建物の裏側に回るため窓窓から見られぬよう腰を下げて行った。
丁度、診察室の隣の休憩室の窓の所まで来てそーっと中をのぞいた。
なんと、やはり、白い柵のベッドには女性が一人寝ており、目は覚めていないようだ。足首には銀メッキの手錠がかけられ、柵に繋がれている。監禁だ!ライオネル医師だったか!
スティーブは気づかれないようにクリニックを離れ、警察に連絡した。
「探偵のスティーブ・アランです!只今、ライオネル・スチュワートメンタルクリニックで監禁されている女性がいます。急いで急行してください。サイレンは鳴らさずに!」
5分後、隣街からパトカーが一台 静かにやってきて、クリニックの前につけた。「アランさんですか!?」「そうです。」「ここで待ってて下さい。」「診察室の奥の休憩室に女性が監禁されています。」とスティーブ。
3分後、医師を取り押さえ手錠をはめて警官が出てくる。
こちらを見て恨めしそうな顔をする医師。スティーブはその表情を目に焼き付ける。警官が医師を後部座席に収め、手錠を助手席のネックの棒にくくりつけた。
警官はスティーブを待たせ、女性を救出して出てきた。
警官はすぐにメグ・スチュワートさんですね?と彼女に尋ね、そうですと返事を受けた。奥さんだったのだ。
スティーブは、やはり、と納得が行ったようだった。
帰りの道すがら、スティーブはこれまでの一部始終を思い出して歩いた。
後日、ミニーが再訪して、今回の事件の知らせを聞いたと言った。
彼女は、閉院になったクリニックを辞めて、次のメンタルクリニックを探していると言う。
去り際に、ミニーは言った。「ありがとうございました。人生には不思議なことがありますが、大抵は解決してきました。今回も犯人が捕まって良かったです。少しワクワクもしました。」
ライターのジム・モートンが新聞を読んで、別の日に、やってきた。
スティーブは「今回も不思議な事件でした。結局、監禁されていたのは、奥さんで、奥さんは足の傷を治しにクリニックに来ていました。
医師は奥さんを監禁していました。奥さんはなにか手がかりを掴んだのか、医師がミニーのいない日に何か診察室でやっているのではないかと怪しんで見に来ていたのです。
医師はコンセントに仕掛けた盗聴器で患者の様々な話を聞くのが趣味だったのでしょう。
奥さんを監禁している間、聞いていたのでしょうかね。録音を。」
ジムは「どんな話を聞いていたんでしょうね?」と訊く。
「患者は様々な妄想体験や惨状を医師に語らなければいけませんから。しかし、盗聴は犯罪です。ですから、今回は、二重の罪ですね。」
「ところで、どうして休憩室をのぞきに行きましたか?」
スティーブは説明した。
カチャカチャと鳴った引き出し、そこには手錠が、ハンドクリームが多すぎたのは医師が奥さんと争って痛めた手をケアしていたこと ー 手錠を使って ー そして、ミニーの証言で鉄柵に擦ったあとと床を引きずった跡、最後にコンセントにハマっていたプラスチックのボックス。あれは盗聴器。
これで彼は休憩室に誰かが監禁されているのではないかと思いました。
ジムとスティーブは長い付き合いで、スティーブが様々な事件で犯人をひったてるとき、やってきては、その事情を聞き、編集の参考にする。今回の話も何度か新聞に載るのだろう。
FIN




