第九話:運命の選択――温もりへの降伏(ガルム・ルート)
1.温もりへの降伏
ヴィオラは立ち上がり、玉座の間へ向かう扉の前で立ち止まった。アズリエルとルキウスが提示した支配者の椅子、シリウスの永遠の盾、エルヴィンの魂の自由……。
全ての選択肢を天秤にかけた結果、彼女の冷徹な理性が弾き出した結論は、「どれも、私を縛る」というものだった。
その時、彼女は台所での温かい粥の味と、バルコニーでガルムに抱きしめられた時の熱を思い出した。
(私は、悪役として、誰にも頼らず、自分を犠牲にすることでしか生きる価値を見出せなかった。だけど、彼の愛は、私が何も成さなくても、ただ生きているだけで価値があると、教えてくれた)
彼女の魂は、支配でも義務でもなく、偽りのない温もりを求めていた。
ヴィオラは、魔王城の冷たい廊下を、ガルムがいるはずの訓練場へと向かって歩き出した。
2.理性からの解放と本能の喜び
ガルムは、訓練場で自身の獣人の魔力を制御する修練をしていた。ヴィオラの姿を見た瞬間、彼の目は純粋な歓喜に輝いた。
「ヴィオラ!どうした、こんな時間に。何か美味いものでも作ってやろうか?」
彼は、彼女の最終決断など微塵も気にせず、ただ彼女の存在だけを喜び、無条件の温もりを与えようとする。
ヴィオラは、その裏表のない熱こそが、自分の冷え切った人生に最も必要なものだと悟った。彼女は、ガルムの前に立ち、彼の手を取った。
「ガルム。あなたの愛は、最も不合理で、最も愚かで、そして、最も温かいわ」
ヴィオラは、彼女の長い人生で初めて、理性の計算を完全に放棄した、心からの微笑みを浮かべた。
その微笑みは、騎士シリウスが見た安寧の光でも、ルキウスが見た完璧な美でもなく、生身の女性の、純粋な喜びだった。
「グルルッ……!ああ、ヴィオラ!お前が笑った!そんな理屈なんてどうでもいい!俺がお前を一生温める!それだけでいいんだ!」
ガルムは、支配者の椅子も永遠の契約も、全てを放棄して彼女を抱きしめた。
「アズリエル様や、ルキウス伯爵の支配も、シリウスの盾も、エルヴィンの自由も、全て断るわ。私は、あなたのつがいとして、理性からの解放を選ぶわ」




