第八話:最終決断の瞬間
アズリエルとルキウスによる、支配と優越の誘惑が去った後、ヴィオラは自室に戻った。室内に広がる静寂は、彼女の心の嵐を際立たせるだけだった。
ヴィオラは寝台に腰掛け、これまで生きてきた「使命」と、今目の前にある五つの「愛の未来」を、理性で分析しようとした。しかし、彼女の冷静な理性は、すでに感情によって深く侵食されていた。
(……もう疲れたわ。誰かのために生きる人生に。使命という重い鎧を、脱ぎ捨てたい。だけど、私の存在価値はその使命に紐づいている……)
彼女の脳裏に、五人の命懸けのアピールと、彼らが提示した未来の形が、鮮明な映像として蘇る。
永遠の支配アズリエル――最高の合理的安息。私の自己評価の低さを、永遠の女王という責任で満たしてくれる。しかし、永遠の孤独も背負う。
美の独占ルキウス――私の優越感と美学を肯定する、対等な支配。しかし、愛は永遠の取引となる。
絶対の安寧シリウス――命を賭した忠誠。私の疲労を癒やす、最も確実で安全な逃避場所。しかし、私の野心は満たされない。
本能の熱ガルム――無条件の肯定。理性を捨て、ありのままの私を愛してくれる生の喜び。しかし、長年培った理性の鎧を脱ぐのは恐ろしい。
魂の自由エルヴィン――真の自己への解放。役割を全て捨て、何者でもない私を肯定する純粋な愛。しかし、それは物理的な存在を捨てることを意味する。
ヴィオラは、冷徹な理性を振り絞り、どの未来が「最も効率よく、私を幸福にするか」を計算しようとした。
しかし、その時、彼女は台所で感じたガルムの温かい粥の味、騎士シリウスの瞳に宿る揺るぎない忠誠、そしてエルヴィンの光の中で流した涙の熱さを思い出し、計算を放棄した。
(もう、計算ではない。これは、私の魂の渇望だわ……)
彼女の心の奥底で、答えは既に出ている。「使命」という縛りが解かれた今、彼女が選ぶのは、「悪役令嬢ヴィオラ・アークライト」の仮面が最も欲し、そして最も恐れた愛の形だ。
ヴィオラは立ち上がった。
アイスブルーの瞳には、冷徹な理性と、決意、そして微かな愛の熱が混ざり合っていた。彼女の最後の選択が、この世界の未来と、彼女自身の永遠の幸福を決定づけるのだ。




