第七話:玉座の間での支配と優越の二重奏
ヴィオラが庭園で涙を流し、感情を露わにした直後。彼女はすぐに理性の鎧を再構築しようと努めた。感情は非効率であり、使命を終えた今、彼女が選ぶべきは最も合理的で、自己の存在価値を最大限に高める道だと考えたのだ。
そして、ヴィオラが向かったのは、ルキウスの私室にある秘密の謁見室だった。そこは、ルキウスが集めた永遠の美を閉じ込めた芸術品で満たされていた。
1. ルキウス:美意識と独占の誘惑
ルキウスは、ヴィオラが感情を露わにした事実を既に察知していたが、そのことに一切触れなかった。彼は、優雅な笑みを浮かべたまま、彼女の理性と優越感にのみ訴えかける。
「ヴィオラ嬢。シリウスの騎士道も、ガルムの獣的な熱も、美しいとは思いますが、貴女の至高の価値を前にしては、いささか低俗です。彼らの愛は、貴女を凡庸な人間に引きずり下ろそうとしているように見えます」
彼は、部屋で最も美しい、永遠に朽ちない宝石細工の薔薇をヴィオラに差し出した。
「貴女が求めるべきは、自己犠牲や安寧といった退屈なものではない。貴女の知性と美しさに見合った、永遠の優越です。私と結ばれることは、貴女の存在を永遠に続く最高の芸術品として完成させること。貴女は、誰の支配下にもない、対等な共同支配者となるのです」
ルキウスの提案は、ヴィオラの悪役令嬢として培ってきた優越感と美学を肯定する、最も甘美な誘惑だった。
(彼の愛は、私の存在価値を最大化する。永遠の美しさと、世界を操る快感。これは、私が長年、理性で追い求めてきた最高の報酬だわ)
2. アズリエル:永遠の責任と最高の支配
ヴィオラがルキウスの手に触れようとした瞬間、謁見室の分厚い扉が、強大な魔力によって一瞬で分解された。
「つまらぬな。ルキウス、貴様の愛は、美学という名の一時的な欲望に過ぎん。貴様は、彼女の真の魂の繋がりを知らない」
アズリエルは、ルキウスを睨みつけ、ヴィオラへと近づく。
「ヴィオラ。貴様は感情に流され、安寧や自由という非合理的な逃避を選ぼうとしている。だが、貴様の本質は、最高の支配者である余と同じだ」
彼は、ヴィオラの肩を掴み、玉座の間へ強制的に引きずり込む。
「シリウスやガルムの愛は、貴様に『弱さ』を許す。だが、貴様の自己評価の低さを完全に埋めることができるのは、余の永遠の支配だけだ」
アズリエルは、ヴィオラを玉座に座らせ、自分もその背後に立った。
「貴様の使命は終わったのではない。貴様が永遠の女王となることで、使命は『永遠の責任』へと昇華されるのだ。余の隣に来い。貴様が選ぶのは、安息という名の終焉ではない。永遠の支配という名の、最高の合理的安息だ」
アズリエルは、ヴィオラの「使命を果たさなければ価値がない」という深層心理を理解し、それを「永遠の女王としての義務」という最高の形で肯定した。
(無条件の愛は、私を弱くする。だが、アズリエルの愛は、私を強く、永遠にする。私の自己評価の低さは、永遠の女王という最高の役割を得ることで、初めて報われるのではないかしら……?)
ヴィオラの心は、「無条件の幸福」と「最高の合理的な支配」という、究極の二択に完全に引き裂かれるのだった。




