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悪役令嬢が救世したら魔王に見初められました【マルチエンディング】  作者: ましろゆきな


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第二話:魔王城の「部屋割り争奪戦」

 魔族の王アズリエルが支配する、人間の常識が通用しない「浮遊城」の一室。


 漆黒と深紅で統一された豪華な部屋で目覚めたヴィオラは、まず冷静に状況を確認した。疲弊した体で倒れていたはずだが、今は最高級のシルクのシーツに包まれている。


「最低限の生存に必要な資源は提供された、というところかしら」


 ヴィオラは心の中で皮肉りながら、城の構造と魔力分布を分析する。この城はアズリエルの魔力を心臓とし、広大な魔族領の上に浮遊しているようだった。最も安全で静かなのは、心臓部から適度に離れた、かつ窓の外に結界が集中している部屋だ。


 そこへ、魔王アズリエルが優雅に、だが傲慢に現れた。


「目が覚めたか、ヴィオラ。貴様の部屋は、余の寝室の隣に用意させている。貴様が余の永遠の存在であることを、一瞬たりとも忘れてはならぬ。」


 アズリエルは、ヴィオラが何の疑問も抱かないことを当然のように告げる。しかし、ヴィオラは冷静なアイスブルーの瞳で、城の構造図を脳内で再構成していた。


(魔王の寝室の隣など、言語道断だわ。魔力も干渉も強すぎて、私の疲労が増すもの。それに、彼の独占欲が最も高まる場所だし。最も合理的な部屋は、西塔の先端。結界の集中点に近く、騒音源からも遠いなのだけれど)


  「アズリエル様。ご配慮感謝します。しかし、私の魔力枯渇は深刻ですわ。最も魔力の安定した、静寂な場所で療養させていただきたいのですけれど。西塔の最上階は、貴方様の魔力の奔流から程よく離れ、結界の安定度も高いと推測します。そちらをお願いしたいのですけれど」


 彼女の「合理性」を盾にした要求に、アズリエルは一瞬、眉をひそめた。


「余の愛しい存在が、余から離れた場所を選ぶなど不愉快だ。だが、貴様のその理性が選んだ場所を、余の力でさらに至高の安息の場所にしてやろう。よいだろう、西塔の部屋とやらがそなたの部屋にするがいい」


 アズリエルがそう言ってヴィオラを西塔へと転移させようとした、その時。

 どうやってか機会を伺っていた他の四人がそれぞれの意図を持って自室を決めるべく、大騒動が起こるのだった。


 西塔の最上階の部屋をヴィオラが選んだと知るや、四人が一斉にその部屋、またはその周辺の「確保」を主張し、部屋割りは即座にカオスな争奪戦へ発展する。


 西塔に一番最初に辿り着いた騎士シリウスは、ヴィオラが選んだ部屋の真向かいの部屋の扉に、迷いなく自身の紋章を刻みつけた。


「ヴィオラ様、いけません!その部屋は防衛上、死角が生じます。私はこの真向かいの部屋で、24時間、貴女様の絶対防衛圏を築きます。アズリエル様はじめ、他の者の接近は、全て私が遮断します!」


 続く獣人ガルム公爵は「理屈」など理解するはずもなかった。ヴィオラがいる部屋の「真下」の部屋で、自身の熱を感じてもらおうと主張する。


「違ーうっ!一番温かい場所が一番安全なんだ!俺が下から魔力と体温で部屋全体を温めてやるぞ!俺の体温は(つがい)には最高だ!俺の匂いでヴィオラを包めば、安心だ!」


 軽やかに姿を現した吸血種ルキウス伯爵は、西塔の部屋自体は地味だと評価し、西塔と繋がっている「空中庭園付きの優雅なスイートルーム」をヴィオラに提供しようと考えていた。


「ヴィオラ嬢、静寂は結構ですが、美が欠けています。私の部屋なら、夜には空中庭園から見える魔族領の景色が、貴女の冷静(クール)な美しさを際立たせるでしょう。ぜひ、私と共に夜の優雅な社交を過ごしましょう」


 物理的な部屋は不要な精霊王エルヴィンは、ヴィオラの部屋の「装飾品」を巡って、アズリエルの支配に異を唱えた。


 ヴィオラの傍にあったクリスタルに憑依し、その意識に思念で伝える。


「アズリエルが用意した装飾品は、彼の魔力による盗聴器です。ヴィオラ、その部屋にある最も大きなクリスタルは私が浄化し、あなたの自由な思考を守るための共鳴装置として機能させますから、ご安心を」


 自分の城で勝手な奪い合いが始まったことに、アズリエルは数千年ぶりの「頭痛」を覚えた。


「何と煩わしいことだ!貴様ら全員、余の城で勝手な真似をするな!」


 アズリエルは、ヴィオラが選んだ西塔の部屋と、ルキウスが主張した優雅なスイートルームを、一瞬にして魔力で連結させる。


「これで文句はないだろう!ヴィオラの部屋は西塔とスイートの二重構造だ。シリウスは西塔の扉を守れ!ガルムはスイートの下の部屋で温め続けろ!ルキウスは、ヴィオラが夜会に出る際のみスイートの使用を許可する!そして、余の部屋は、魔力転移でいつでもこの部屋と繋がっているのだ!」


 ヴィオラの冷静な計画は、アズリエルの強引な支配と、他の四人の溺愛によって、優雅で騒がしい共同空間へと変貌してしまい、小さくため息を付いた。


(私の合理的な選択が、最も不合理で騒がしい共同生活を招いたわ。これでは安息どころか、監視と溺愛の檻ね。……さて、この不合理な状況をどうやって合理的に制御しようかしら。この魔王城での孤軍奮闘は、予想以上に長引きそうだわ)


 こうして、悪役令嬢と異種族たちの、優雅でコミカルな共同生活は、大騒動と共に幕を開けた。

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