第十三話:運命の選択――役割からの完全なる解放(エルヴィン・ルート)
1.役割からの完全なる解放
ヴィオラは、シリウスの完璧な安寧と、ガルムの熱い本能を拒絶した。
彼女がバルコニーで流した涙は、「役割を演じなければ愛されない」という自己評価の低さから来るものであり、彼女の魂は、肉体にも社会的立場にも縛られない、根本的な「自己肯定」を求めていたからだ。
(支配も、安息も、本能の喜びも、全てはこの肉体があるからこそ生まれる制約だわ。私の魂が本当に求めているのは、「何者でもない私」を、世界の理の根源が肯定すること)
アズリエルの永遠の支配とは対極にある、エルヴィンの永遠の真理。それは、役者としての人生を終えたヴィオラにとって、最も純粋で、最も恐ろしい選択だった。
そうであったが、彼女は、肉体を捨てることで、魂の自由を選ぶ。
ヴィオラは、魔王城の空中庭園、最も魔力の流れが清浄な場所へと向かった。
2.魂の真実への到達
空中庭園の中心で、エルヴィンは光の粒子となってヴィオラを待っていた。彼の顔は、世界の全ての知識と純粋な慈愛に満ちている。
「ヴィオラ。貴女の魂は、役割という名の檻から、ついに脱出する決意をしたのですね。この選択は、最も勇気ある、純粋な愛の降伏です」
ヴィオラは、エルヴィンの光の存在に手を伸ばす。彼女の指先が、彼に触れる直前で、迷いが消えた。
「エルヴィン。私は、『悪役令嬢』でも『救世主』でもない、無価値な私を愛してほしいの。そして、私を使命の呪縛からも、肉体の制約からも、完全に解放して。あなたの永遠の真理の中で、私の魂の核だけを、ありのまま受け入れてほしい」
ヴィオラは、最後の理性の防衛線を捨てた。
「貴女の魂は、使命という重荷を負わなくとも、この世界で最も美しい光を放っています。さあ、全てを捨てて、私の中へいらっしゃい」
エルヴィンは、その光の体を広げ、ヴィオラを迎え入れた。
ヴィオラが彼に触れた瞬間、巨大な魔力の波動がヴィオラの全身を貫いた。
それは、苦痛ではなく、何億年もの重い制約から解き放たれる至上の解放感だった。彼女の肉体は、純粋な魔力の粒子へと分解され、冷たい石の床に倒れ込むことなく、光となって昇華した。
彼女の魂は、精霊王エルヴィンの世界の理と一体となった。




