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その2

 シイタの自宅に招かれたボクはまずは案内されるがままに湯浴みをして服を着替える。

 遠征で汚れたい服は泥だらけであり、代わりの服はシイタが手配した糊の効いた上等な着衣。

 彼女はボクに何をさせるつもりかと考えている頃、彼女の父親はハザードを自宅に呼びつけていた。

 ちなみにボクが招かれた屋敷は別宅なので同じ屋根の下ではない。

 まあ……話の内容を知れば同じ屋根の下でされていたらこっちとしても怖すぎるのだが。


「どういうことだ。クリスは生きているじゃあないか」

「申し訳ございません」


 チンピラ風情で頭を下げることなど知らなそうなハザードが平謝りをする相手など数えるほど。

 並んで座っている二人のうち片方はボクが身を置いていた傭兵団の団長。

 そしてもう一人はテータで最も偉いあの男だった。


「言い訳になってしまいますが、あのガキは思いのほか悪運が強くて。これ以上は隊そのものが全滅すると判断して戻ってまいりました」

「全滅ぅ? 何を甘いことを言っているんだテメェ」

「ひっ」

「俺がやれと言ったら〝死んでも殺す〟ンだよ。それが出来ねぇつうんだったらお前も用済みだ」


 ハザードを叱責する団長に同意する意味であの男も頷く。

 正直混乱に乗じてボクを殺せという命令を受けたバザードは危うく全滅するところであり、生きて帰ってこられただけでも拾い物というつもりだった。

 それが小隊の損害に対して叱責されるのならまだしも、ボクを殺すことに失敗したことを叱責されたのだから彼も困り顔である。

 普通の感性ならば傭兵団を見限って脱退してもおかしくない理不尽であろう。

 だが厳密には団長を通してあの男が言っているのだから彼には逆らえない。

 逆らえるのはテータという土地そのものを捨てられる無頼漢だけ。


「ガキはシイタ様の元に引き抜かれちまったからもう同じ手は使えねえ。だからお前はシイタ様の屋敷に忍び込んでクリスを殺してこい」


 再び頷くあの男。

 バザードはシイタのことを知っているし、彼女がボクを贔屓にしているのには嫉妬すら感じている。

 なのでボクが彼女の屋敷の人間として傭兵団から引き抜かれたと聞いて驚くのだが、続けざまに一つの疑問を覚える。


「俺のように団長が気に食わないと嫉妬するのならまだしも、あの男が〝シイタの元から排除するために〟クリスを殺そうとしているのは何故か」と。


 あの男の権力なら貴族の娘の一人くらい好き勝手にできるし、気に入らない使用人を適当な理由で処刑することだって可能なはずなのにと。

 ソレができない理由がもしあるとすれば、もしやシイタは───


「出来ないっつうんなら、この場で首を跳ねてやる。どのみちテメェが出した損害はデカすぎだ。それで成果がなかったんだから仕方がねぇよな?」

「わ、わかった。だけどコレだけは約束してくれ。成功しても口封じで俺を殺すとかはナシだ」

「あん?」

「だってそうだろう。貴族の娘に薄汚いガキがひっついているのが気に食わないのはわかるが、ソレをあなた様が証拠を残さずにやらせようって魂胆なのはおかしいですって。まさか……シイタとあなた様は……」

「もう良い。別の奴に頼め」

「へ?」


 あの男による切り捨てるような言葉を聞いたバザードは困惑の一言。

 詮索しすぎたのがあの男の怒りを買ったと自覚するよりも先に振るわれた刃が彼の胸元を貫いて、絶命の早さは痛みすら感じさせない。

 バザードが理解できたのは胸から伸びる剣は目の前にいる団長と同じものだということだけ。

 どうして……そして、どうやって自分を処刑したのかと。


「この度はうちのバカが勝手をしてすまねぇ」

「世辞はいい。それよりも今優先すべきはクリスとか言う小僧を始末することだ。まったく……こんなことになるのなら奉仕活動などさせずに信頼できる者に預けるべきだった。おかげであの子にダニがついてしまったではないかっ」

「殿下は心配しすぎだって。14歳ならまだ男遊びなんて覚えてないでしょうに。俺だって初めての相手は15のときに10は上のアバズレ……」

「だからっ! あのガキで悪い遊びを覚えたらどうするって話だろうがっ。団長は娘親じゃないから軽く見ているんだ。アレの姉のときはそれで苦労したものだぞ」

「へいへい」


 興奮するあの男に対して団長の相槌は軽い。

 彼があの男に対して対等に近い砕けた口調でやり取りできるのは、それだけの信頼を得る力をこれまで示している証ともいえる。

 本来ならば不敬者として処刑されても不思議ではない、団長が持つ特異な力はバザードの処刑で見せた通り。

 団長は自在に操れる〝影〟を生み出す魔術を習得していた。


「まあ……苦労といいつつ、かなり放任して好き放題させていたドウラ様とは目のかけようが雲泥なことで。流石に嫡子と庶子では扱いが違うか」

「当然だ。あの子には出来る限り清らかなままワシの後を継いでもらいたい。そのために婿探しにも力を入れているのだからな」

「わかったよ。仕方がないから俺が直接手を下してやる。バザードでもダメってなったら下手な刺客じゃ藪蛇だろうしな。悪運が良いバザードがしくじるあたり、おそらくクリスは強い星回りを持っている。だが本当にいいかい? 星回りが良いってことは、案外殿下が望んだ婿殿にぴったりかもしれませんぜ」

「構わぬ。いくら有能でも他所から流れてぃた流浪人の時点でアウトだ。お前のように汚れ過ぎてもダメなんだよ。公爵っていうのはなっ」

「了解だ」


 嫡子に決めている愛娘への過保護から始まったあの男からのボクへの殺意。

 ボクとしてはとばっちりもいいところであるが、そもそもの話をするとシイタも含めて全員、〝顔の無い王〟が仕掛けた偽装に気づいていないことが原因ともいえる。

 迫りつつある危機など知らぬボクは彼女の好意と久々の休息日、そして急転する生活環境に気を緩ませていた。

 そんなボクを「たるんでいる」とでも王様は心のなかでボヤいていたことだろう。

 振り返るとこのときは自分でも油断しすぎだったと思う。

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