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その1

 これはまだ新しい金印を手に入れていない13歳の頃。

 当時のボクはテータ公領に住んでおりクリスと名乗っていた。

 ここでのボクは性別を公言していなかったのだが大半の人間はボクを男の子として扱っている。

 髪はさほど長くないし胸板も薄いので、華奢な少年だと思っても仕方がなかっただろう。

 王様も今後のためには必要な犠牲だと言ってノリノリでボクに男装を勧めてきていた。

 そんなボクに対してひとりの女の子が淡い恋心を抱いて接していたのだが、その頃のボクは子供同士の友情としか思っていなかったのが勘違いを加速させてしまっていただろう。


「ねえ……クリスはどうして傭兵なんてやっているの?」


 このボクに疑問をぶつけてきた少女がそう。

 彼女はシイタという名前で貴族として傭兵のボクらに接していた。

 領地のために体を張る大人たちを労うのはテータでは無力な女子供の役目。

 時には身体を使ってでも兵をもてなすらしいのだが、まだ子供な彼女にはそこまでの重責は与えられていない様子だった。


「どうもこうもないよ。稼がなきゃ暮らせないだけさ」


 まだ〝顔の無い王〟としての行動は最初の一回だけの段階なのもあり、ボクの答えは同じ年頃で傭兵をしている人間の模範解答であろう。

 この頃のボクは力と金を得るために戦いに身を投じていた。


「それでもまだ子供なんだから。男だったら傭兵になって強くありたいってのもわからなくはないけれど、もう少し大人になってからでも構わないじゃない」


 シイタの提案は世間を知らない人間としては正論であろう。

 たしかに両親が健在な子供を13歳で傭兵にするというのは、いくら子が望んだことであっても酷い親として扱われる。

 だがボクにはその親がいない。

 孤児を捕まえて「孤児院の保護に入れ」といっても実際には10歳を過ぎれば追い出されて傭兵送りなんてザラなのがこの合衆国の実態だ。

 そんな現実をボクはわざわざ彼女には伝えない。

 不幸自慢なんてするガラではないのだから。


「心配してくれてありがとう。だけど13歳ってのはなにかしら少しは働かなきゃいけない年頃だしね。孤児で流れ者のボクがやれる仕事なんて他にはなかっただけだよ」

「だったらお父様に頼んであげるわ。傭兵よりも安全な、子供にもできる仕事が絶対にあるって」

「気持ちだけは受け取って置くよ」


 ボクはそういうと席を立つ。

 直属の傭兵頭に召集された時間が近かったからだ。


「待って」

「そろそろ出陣なんだ。次の休息日には戻れるから、お話はその時にでも」


 友達に「また明日遊ぼう」と伝える感覚で手を振ったボクの背中を見送るシイタ。

 胸元で手を握ってボクの無事を祈る彼女の胸は高まっていた。


 その後、ボクは約一ヶ月間、遠征でテータ公領を離れていた。

 シイタに約束した次の休息日は3回もすっぽかしてしまっていたが、遠征中の休息日は変則的なので嘘をついたつもりはない。

 だがうっかりややこしい再会の約束をしたことで、ボクは彼女を心配させてしまっていた。

 実際、今回の遠征ではここのところは手を借りる機会が少なかった王様のおかげで切り抜けた窮地があり、ボクの直属だった傭兵頭も戦死している。

 4小隊16人の派兵で帰還者はボクを含めた7人なのだから、ボクが戦死したとシイタに誤解されたのも当然だった。

 帰ってきたボクを出迎えたシイタは涙を浮かべてボクに抱きつく。

 同行していた傭兵頭のバザードですらシイタに泣かれていないのだから、この態度の差は彼には不愉快だったであろう。

 こういうときの悪意はオメガの金印を使えば余裕で読み取れるのだが、それよりも前に紅蓮の鷹での経験から異能なんて使わずとも想像に難くない。


「無事でよかった」


 友達に泣かれて気まずいし、なにより「貴族子女に泣きつかれるような待遇を受けるべきは俺だ」というバザードの敵意が肌に刺さる。

 とりあえずシイタを落ち着かせなければ。

 そう思ったボクは彼女を胸元から離して向かい合った。


「落ち着きなよ。そんなに心配していたの?」

「ごめんなさい。次の休息日には帰ると言っていたのに遅かったから……心配していて……」

「それはごめん。だけどここで流れてもみんなが見ているから」

「わかったわ。でしたら続きは我が家で。ついてきてクリス。団長さんには許可を取っているから」


 シイタはそういうと旅の汚れも落ちていないボクの手を引いて馬車に押し込むと、そのまま彼女の家に押し込んだ。

 遠くからバザードの怒号が聞こえたのだがシイタは知らんぷりである。

 嫉妬を通り越して明確な殺意にまで膨らんだ彼の悪意は不吉な予感。

 遠征中に感じた違和感を思い出しながら、ひとまずボクはシイタに従ってみることにした。

 このまま舎屋に帰るほうが危険だろうなと予感しながら。

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