【ホラー】銭皿様と七人の男
「銭皿様と七人の男」
私の名前は美鈴。
会社を辞めて一年、恋愛も仕事も、空っぽ。何をやっても裏目に出る。
ある日、実家の納戸を掃除していて、埃をかぶった木箱を見つけた。
中には、一枚の皿が入っていた。
見た瞬間、不思議な気配が走った。
水をかけると、皿の表面に数字が浮かぶ。まるでその人の預金残高のように。
最初は信じられなかった。
でも、試してみた。マッチングアプリで出会った男に──。
「年収800万ってプロフィールだったよね?」
「うん、そうだけど?」
皿には【97,258円】と表示された。
その日から、私の人生は変わった。
一人、また一人。男たちを品定めした。
商社マン、開業医、起業家──金だけじゃない。皿は、彼らの“心の空白”まで見せた。
皿に数字と一緒に浮かぶのは、黒い水のシミのような「欲」。
何かが欠けてる人間は、水が濁って見える。
何度か、ベッドの中で泣かれた。「金貸して」「親が入院で……」「介護費用が掛かって」
でも私は冷静だった。
皿が、すべてを暴いてくれる。
ある意味、神になったような気分だった。
そんなある日、彼に出会った。
紺のスーツ、無駄のない所作、声も穏やかで、愛情もたっぷりで、何より――皿が透明だった。
初めてだった。
数字は【7,104,980円】。水は、曇りなく澄んでいた。
私は、彼にすぐ恋をした。そして、結婚した。
最初の一年は夢のようだった。
優しくて、堅実で、相変わらず私を愛してくれて、生活も安定していた。
だけど、ある夜、彼が帰宅のカバンから何かを取り出した。
それは──同じような青白い皿だった。
「君の実家の蔵で見つけたんだよ、予備かと思って」
私は凍りついた。
彼は微笑みながら言った。
「ねえ、美鈴。今の君の中身、見てもいい?」
私の皿を、彼の皿が覗き返した。
二つの皿の間で、水が打ち合うような音がした。
からん、からん、からん……
私の皿に浮かんだ数字は──
【ゼロ】
そして、その下にこう書かれていた。
「中身がない者に、数字は宿らない」
私はその日から、一言も彼と言葉を交わせなくなった。
彼は私に何も言わない。
ただ、皿を棚に戻し、静かに暮らしている。
私は、鏡を見るのが怖くなった。
そして、また一人で、男を探し始めた。
今度こそ、本物を見つけるために──
いや。
「皿を覗き返さない男」を見つけるために。
【完】
銭皿様の別バージョンです。
AIが「いっそのこと、銭皿様ランドでも作りますか? 入場は無料です」と言うのでお断りしましたw