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續「猫をぢさん」

〈永き日や思ひ出なぞは余計事 涙次〉



【ⅰ】


「猫をぢさん」こと松見とは、茶飲み友だち、と云ふ形でじろさんは交際を始めた。

 彼が語る身の上は、全くじろさんの想像にはなかつた事ばかりで、いちいち驚かされたのだが。

 彼は、所謂「はぐれ【魔】」だつた。ルシフェルからカンテラ一味の探索を云ひつかつてゐたのだが、カンテラの剣怖さに、それをしくぢり、魔界から追放された、と云ふ。松見鉄五郎とは、世間を欺く名で、魔導士としての本名は岩坂十諺(いはさか・じふげん)と云ふのださうだ。家を空ける期間は、秩父にある「スタジオ」で、八卦三昧の日々、である。彼も、依頼者から仕事を受注、卜占で幾らかのカネを得てゐて、その點、一味の活動に似てゐた。

 今度の「ねかうもり」の一件で、自分の無力さにはほとほと愛想が盡きた、出來れば、カンテラに庇護して貰ひ、密偵として一味に貢献したい、とも付け加へた。

 じろさん「それは願つてもない事、是非私からカンテラには推挙しませう」松見=岩坂「有難うございます。何卒宜しく」



【ⅱ】


 その話は、カンテラも、じろさんナイス判断、と褒め、こゝに岩坂十諺と云ふ、強力な「對ルシフェル」の助力者を得た一味。

 何せ、得体の知れぬルシフェルである。彼の事をよく知る者が、身内にゐるのとゐないのとでは、雲泥の差だ。岩坂は、それでカンテラの「斬」から逃れ得、互ひに利害が一致した譯である。


 岩坂は、八卦でルシフェルの近邊を探るべく、秩父へと向かつた。



【ⅲ】


 ルシフェル-「裏切者が、幾ら足掻いても無駄なのだ」- 彼は新しい「使ひ魔」として、猫ガミを蘇生させた。猫ガミは、カンテラ事務所の邊りに(たむろ)する野良猫から、カンテラ一味の情報を得る事となつた。

 それを知らず、テオが野良たちに、情報をリークしてしまつたのは、致し方のない事である。テオは、猫たちとは、健全な友好関係を保つてゐる、と思ひ込んでゐたのである...。


 岩坂が秩父から帰つて來た。彼は、ルシフェル配下に就いた人間たち、人間でありながら魔道に足を踏み入れた者らの、リストを作成してゐた。カンテラは、当然の如く、その中に「間司霧子」の名を見たのである。「あの跳ねつ返りが!」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈邪念てふ物が降る降る夜の街だう生きるかはその時の運 平手みき〉



【ⅳ】


 意外な事- 霧子がカンテラ事務所に顔を出した。カンテラ「あんた、また新しいパートナーを持つたさうだな」霧子「貴方様が振り向いて下さらないからですわ。敵としてゞも、わたしを見て下さるのなら、と思ひまして」戀情の余り、と霧子は云ふのである。それは、カンテラには手に余る事ではあつた。

 悦美は茶も出さなかつた。「あんな惡魔みたいな女、カンテラさん、斬つてしまへばいゝのに!」


 猫ガミ蘇生の件も、岩坂は情報を得てゐた。その事をテオに話すと、「今度は僕が斃してやる!」テオは秘密兵器「破邪の爪」を更に鋭い得物とする為、安保さんと何やら秘策を練つてゐる。兎に角、猫ガミは剣呑な存在。近隣の猫たちのコミュニティに、邪なヒエラルキイを持ち込んでしまつてゐる-



【ⅴ】


 猫ガミは、相變はらずでつぷりと肥え、雌猫たちを侍らし、またテオに日頃から良からぬ思ひを持つてゐる雄猫どもを、警護に当たらせてゐた。テオはゐても立つてもゐられず、使ひの猫に、「今夜、猫ガミの命、貰ふよ」と傳へ、その時を待つた。

 見張りの者たちを躱し、テオは猫ガミに近付いた。そして、こんな事生まれて初めてなのだが、猫としての本性を露はにし、「フギャーオ!!」と全身の毛を逆立てた。

「何で貴様は人間の味方を...」猫ガミはその言葉を云ひ終はる迄もなく、テオの「破邪の爪」に斃された。「僕には僕の倫理規定があるんだ。地獄でそれをとくと検分するんだな」テオはまるで、カンテラになつた氣分であつた...。



【ⅵ】


「猫ガミは、あの天才猫とやらに、()られたか」ルシフェルはだが、意に介してゐない。だうせ使ひ魔は、彼にとつては消耗品に過ぎぬ。惡魔には惡魔の倫理規定があるのだつた。これは、皮肉ではない。



【ⅶ】


 霧子は夜の街を、久し振りに見るのだ。人間界に立ち戻つたのは、もう數十日ぶりなのである。つかつかと着物の裾をもつれさせながら、歩き回つた。あの子たちに、會ひたいわ... 二人の連れ子の事ばかりが氣になつた。だが... どすん! 彼女は何者かに體当たりされた... 黑装束に覆面の、じろさんである。

「あ!」思はず尻餅をつく。後ろ手に捕縛され、彼女は囚はれの身になつた。じ「あんたを拐帯すれば、ルシフェルは怒るだらう。そこが俺たちの付け目さ」


 さて、叛撃だ! カンテラは、差し料を腰に下げ、立ち上がつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂

 

〈眞夜中の耕馬は夢にいなゝけり 涙次〉


 

 次回につゞく。

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