第6話 ロマ共和国の友好国達
ロマ共和国が意見の統一も出来ずに会議を延々としている中、迅速に軍を動かした国があった。それがサガン王国の東に位置しているゴート王国だ。とはいえこれはサガン王国の窮地を見過ごせなかったというよりも、サガン王国が落ちれば次は自分たちの領土が攻められると判断してだった。実際、一部のハン帝国軍はゴート王国領内に侵攻しており、小さな戦闘が次々と起こっている。この状況でサガン王国の陥落だけは避けたいと考えたのだ。
そして、ゴート王国の南に位置ているササンも同様の理由から軍勢の派兵を決定した。ダタル帝国を除けばロマ共和国の友好国の中で最大規模の軍勢を持ち、ロマ共和国軍とも対等に渡り合うササン軍4万は次々と領土を失い続けているサガンに向けて出発した。
だが、やはりというべきか現状では派兵をしないと決めた国がある。ロマ共和国、ササンに次ぐ三番目に国力・軍を有するツクツーは自国がハン帝国とかなり距離がある事を理由に派兵はしないと宣言していた。実際、この国に住む者のなかでハン帝国を危険視している者はほとんどいない。所詮、今の彼らにとってハン帝国は対岸の火事でしかなかったのだ。
ツクツーの動きは周辺国家にも大きな影響を及ぼした。大半の国家が派兵をしないと宣言したのである。とはいえ中にはロマ共和国を仲介にする事で交流を深めている国家もあり、そういった国はその外交の細さからわざわざ派兵する必要はないと判断しているところも多くあったのだ。
「我らは友好国ではあれどそれはロマ共和国に対して、である。そして、友好国だけであり、我らの間に条約も同盟も存在しない。対岸の火事と切り捨てて何が悪いのか」
ロマ共和国の友好国の一つの国家ではそのように発言する国家もあった。だが、実際にその通りであり、派兵しないと決めた国家に対して命令するような事は出来ない。そう言った事が出来る同盟でも条約でも結んでいるわけではないのだから。
そして、ロマ共和国最大の友好国にして周辺諸国最大の兵数を持つダタル帝国だが、この事態に対して派兵をする事はなかった。いや、出来なかったのだ。実は不運にもダタル帝国は出兵中であり、ダタル帝国の北東に位置する西方魔族連合、の属国であるアクラシュに侵攻していたのだ。その数は凡そ20万であり、領内の至る所から出兵されていた。対するアクラシュの兵数は4万5千。西方魔族連合がヴァーゴ王国と戦争中で兵を出していないがそれでも同じ属国が兵を出して10万近い軍勢で迎え撃つ構えを見せていた。
これはまだ始まったばかりの事であり、当分の間ダタル帝国がロマ共和国に救いの手を伸べる余裕はなかったのである。
つまり、ロマ共和国はハン帝国相手に使用できると思われた20万の軍勢に届かない上に相手は予想をはるかに超える軍勢を繰り出しているこの状況で勝利を得ないといけなかったのである。もし、敗北するような事があれば、それはロマ共和国の滅亡とハン帝国による南西諸国の統一を意味している。そうなればロマ共和国の民に待っているのは破滅的な未来となるだろう。
後の世で人々は語る。「我ら最大の窮地はあの時であった」と。