第4話 後手後手
「状況は!?」
「はっ! 既に国境部は陥落! 展開していた1万5千のうち、半数が壊滅! 残り半数も敵の後続に足止めをくらっており、合流は不可能です!」
「くそ! 完全にやられた!」
ロマ共和国軍のアピウス将軍は自軍の兵士の報告を聞き手をテーブルにたたきつけた。表情は怒りで真っ赤になり、荒く呼吸を行っていた。
ハン帝国の奇襲より半日、漸く状況を把握したサガン王国だが既に手遅れに近い状況に陥っていた。何しろ王都であるクブタ近郊にまでハン帝国が迫ってきており、その数は優に5万を超えていた。最初に3万の軍勢で越境したハン帝国だったがその1時間後には10万ちかい軍勢で国境部に襲い掛かったのだ。結果、圧倒的に兵力で劣るサガン王国軍は壊滅状態となり、的確な防衛が出来ないでいた。そんな中でクブタに5万のハン帝国軍が迫ってきていたがこの時、クブタを守る軍勢はロマ共和国の上ちゅう軍1万とサガンの王都守備隊5千しかいなかった。
「既に本国には伝令を送ったのだろうな?」
「はっ! ですが本国からの援軍が間に合うとは……」
「……アラバエタにはこの時の為に1万5千の兵が常駐している。それが援軍として駆け付けてくれるだけでも違うのだが……」
それでも心もとないとアピウス将軍は考えていた。そもそも、ロマ共和国軍は総勢8万。ダタル帝国以外の友好国全てを合わせれば20万に上ると予測されているがそのうちどれだけの国家が兵を送ってくれるのか分からなかった。加えて、ロマ共和国ではハン帝国の総数を10万と考えていた。だが、10万の兵が襲来している事を考えれば本国の守りも含めて15万はいると予想した。
「(くそっ! ハン帝国軍は何もかも想定外だ! 加えてこちらが後手に回っている! このままではサガン王国どころか本国も陥落しかねないぞ!)」
長年常駐軍を率いてきたアピウス将軍は現状のまずさに焦りを覚える。だが、そう考えている間にもハン帝国軍は大きく動き続けていた。
「将軍! 友好国ラマフ軍が壊滅! 王都を包囲されていると情報が入りました!」
「なんだと!?」
ラマフはサガン王国の北部に位置する国家であり、ロマ共和国の友好国である。近年はハン帝国北部の王国が取り込まれたことで彼らも従属するかで揺れていたが決着がつく前にハン帝国に侵攻された形となった。
「あそこは友好国と言っても独立性が高い国だったが……。ハン帝国め、一体どこまで軍の規模を増大させているのだ……!」
「アピウス将軍! ハン帝国軍が直ぐそこまで迫ってきています! 軍の指揮を!」
「分かっている! いいか! ここはサガンの王都! ハン帝国に決して渡してはならぬぞ! そして必ずや援軍は来る! それまで持ちこたえるのだ!」
「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
アピウス将軍はハン帝国のこれ以上の侵攻を阻止するべく陣頭で指揮を執り、王都の防衛を開始した。そして、ロマ共和国が状況を把握し、軍を派遣する直前まで王都を守り続けたのである。
そう、ロマ共和国が事態を把握した時には全てが手遅れだったのだ。王都は最終的に10万にまで膨れ上がったハン帝国軍の前に陥落。1万5千の将兵は全滅。アピウス将軍も自ら剣を振るうも四方八方から槍に突かれて戦士したのであった。
後の世に「ロマ・ハン戦争」はこう伝わっている。
『戦争の序盤において、ロマ共和国はハン帝国に対して大敗した』と。