第2話 ハン帝国
「偉大なるハンの皇帝にして我らの新たなる主にご挨拶申し上げます」
「我ら三国、偉大なる武帝陛下の庇護下に入らせていただきます」
ハン帝国大都。この国の中心地にして皇帝が住まうこの都市は彼らの文化も合わさり、異色な雰囲気を醸し出していた。もし、ここに転生者がいればこう答えたであろう。「中国王朝だ」と。
その大都にある皇帝が住まう城には3人の男たちが皇帝と謁見をしていた。彼らはハン帝国の北部に位置する小国の王であり、ハン帝国の侵略行為に耐え切れずに従属を申し込んできていた。
「……許そう。貴殿らの英断により領土は守られ、人民は安寧を手に入れた」
「っ! ありがとう、ございます……!」
これで侵略される事はない。3人の王は心の中で安堵のため息をつくが皇帝が発した次の言葉で固まった。
「後日、我が国の征統官を派遣する。今後、貴殿らの国は我が国の征北統護府となる」
「せ、征? それは一体……」
「簡潔に言えば貴様らはもはや用済みというわけだ。連れて行け」
「なっ!? 陛下! どうか、お助け……!」
突然の事に声を荒げる3人の元国王たちはハン帝国の兵士たちに引きずられて別室へと連れていかれる。……彼らは2度と祖国に足を踏み入れるどころか日の光を浴びる事もないだろう。彼らの命はここを訪れた段階で決まっていたのだ。
「これで朕の帝国は領土を更に増やすことになった。だが、まだ足りない」
皇帝は瞳の奥に炎を宿しながらつぶやく。彼とその父である前皇帝が目指しているのは大陸の覇者である。この地方で覇権を確立する程度では満足できないのだ。
「だが、西方に手は出せない。ロマ共和国を倒すのは今は無理だ」
侵略を繰り返すハン帝国だがそれを阻んでいるのがロマ共和国だ。彼の国は現状ではハン帝国と同等の国力を有している。そのため、味方が多いロマ共和国が圧倒的に有利だったのだ。
「今はまだ我慢だ。奴らを圧倒する兵器は完成し、量産体制に入っている。東を征服すれば奴らよりも国力が上がり、戦う事が出来るようになる。それまでは我慢の時だ」
だからと言って腹正しくないわけではない。皇帝はロマ共和国をどうやって滅ぼそうかと考えながらなんとか心を落ち着かせようとしていた時だった。彼の部屋が急に明るくなったのだ。
「な、なんだ!?」
突然の事に驚く皇帝だが、光はやがて収まり、気づけば一人の女性が立っていた。絶世とも、傾国ともいえる美女は見惚れる皇帝に笑みを浮かべながら言葉を発するのであった。