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38.新たな領の始まり

 その日は『粋』領の人達に新しい領を作る旨を伝え、手伝って欲しいとお願いしたのだ。


 何人かの字兵と街の人を連れて草原へと出た。


 同じく『生』領からも人を集めた。


 手始めは、小さい一軒家からだな。


「ここに、一個小さい家を作りたいんです。一応一通りの設備はお願いします」


「おぉ! 領主の家か⁉」


「皆の家です。ボクも寝泊まりしますけど、街を作る作業の間に使う家って感じです。最後はボクが使います」


「それなら少し大きくしようや。そしたら沢山人が泊まれる」


 字兵の人のその言葉に「小さくていい」と言おうとすると。


「そうだ! 皆で泊まるんだもんな⁉ 最終的に領主の家ならデカく作ろう!」

「そうすっか!」

「んだな!」

「いよっしゃ! 気合い入れて作ろう!」


 皆が農具で穴を掘りだした。


「えっ⁉ なんで土を掘るんですか?」


「そりゃおめぇ、基礎を作らねぇと、家は沈んだり歪んだりして崩れるぞ?」


「そうなんですか⁉ 知らなかった! じゃあ、ボク掘ります!」


 そう口にすると目を見開いた男の人達が声を挙げた。


「一人じゃ無理だって!」

「そんだ! 無理だ!」


「その、字力でやるので、こうやって『掘』れるんですよ」


 手を翳すとそこの土はめくり上げられ一つの溝ができた。


「はぁぁ。この領主様はすげぇなぁ」

「たまげたなぁ」

「なんでもできるのか?」


 褒めちぎられてちょっと照れてしまう。

 字兵の人達に言われた広さを掘り上げてみせた。

 ものの数分で家の広さの穴ができた。


 そしたらその人達は穴の底に『岩』と印して字力を流している。

 これは下を岩に変えているのだ。


「この上にも岩を乗せんだけどよぉ。岩を出せるか?」


 完全にボクを何でもできる人だと思っている。

 でも、実は出せる。


 希望通りの『岩』を出す。

 それを積み上げていく。

 できた所に壁を作っていく。


 皆はレンガ作りの家なのだが、この家は別になんでもいい。

 地面に『壁』の字力を飛ばして壁を作っていく。


 おっちゃん達に言われたところへ『柱』を立てていく。


 屋根には地面から生やした『壁』を乗せて作る。


 屋根と壁や柱は『繋』いだ。これは人との繋がりも作れるのだが、それはまた別のお話。


 そんなこんなでガワはものの数時間で出来上がった。


 字力に物をいわせた突貫工事である。


 扉をおっちゃんに作ってもらって開け閉めできるようにして、完成。

 後は、中を弄ればいい。


「いったん休憩にしましょう」


 こうなった時の為の街の人達なのだ。

 持って来てもらった食材で料理を振舞ってもらう。

 建物の中はたちまち香ばしいいい香りが漂う。


 適度に酒を飲みながら皆でワイワイと食事をする。


「シュウイはこの領の領主になるんだろう? 他の領はどうするんだ?」


「うん。それなんだけどね、実はこの領だけでいいかなって思ってるんだ」


「他の領はいらないってのか?」


「ううん。そうじゃないんだ。この領を中心にこの世界全ての領を統治しようかなって思って」


「なるほど、それこそが天下統一だな!」


 おっちゃんが陽気にそう口にすると他の人達も気持ちが昂ったのだろう。タイガさんの話をし始めた。


「タイガさんのやりたいことはきっとこういうことだったんだろうな!」

「そうだ! シュウイを意を汲んでくれた!」

「こんなに嬉しいことはねぇ!」

「俺達の夢は、現実になる!」


 おっちゃん達は嬉しそうにそう語った。

 中には目元を濡らしている人もいる。


 ボクも実は目が濡れている一人だ。

 ようやくタイガさんの夢を叶えられる。

 本当はタイガさんが生きていて、この領を統治して欲しかった。


 けど、今は悲しみに暮れている場合じゃないと、街の人達に勇気づけられた。


「よかったね。シュウイ?」


 ミレイさんは横でにこやかに笑った。

 一番つらいのは自分なのに、ボクを気遣ってくれる。


「ミレイさんがいてくれたからだよ?」


「そんなことないわよ。シュウイはいつだってすごい。私なんて……」


「ボクを拾ってくれたでしょ? それから始まったんだから」


「ふふふっ。それは、そうね? 私のおかげよね?」


「すぐ調子に乗る!」


 ミレイさんのおでこを小突いてやった。

 この笑顔が見られるだけでも幸せだ。


「なぁ、シュウイよぉ、いつミレイをもらってくれるんだ?」


 そこでおっちゃんがぶっこんできた。


「ちょっと! なぁに言ってんのよ⁉ やめて!」


「俺達はミレイが一人のままじゃないかって心配なんだよぉ!」


 ミレイさんの静止を押し切っておっちゃんが詰め寄ってきた。


「うーん。今は……まだ」


「てぇーことはよぉ、いずれはって思っていていいんだな?」


「う、うん」


 うわぁぁぁぁ。恥ずかしいぃぃぃぃぃ。

 顔が赤くなっているのがわかる。

 耳も熱い。


 チラッとミレイさんを見ると、そっちも顔を真っ赤にしていた。

 木の実みたいに赤い。

 ボクもだろうけど。


「シュウイがそういうなら心配いらねぇわ」

「そうだなぁ。聞けて良かった!」

「俺達は待ってるからな!」


 待ててないじゃん。催促してるじゃん。もぉぉぉ。


 ボクは恥ずかしいやらでもうその日は使い物にならなかった。


 ちなみにボクとミレイさんを建物に置いてみんなは野営をしていた。


 勘弁してよぉぉぉ。恥ずかしさと嬉しさでまともには寝られなかった。

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