7.お嫁さん
辺境伯家からリザードの家へ来た4人は一度持ってきた荷物を置くとルーシィの家に早めの晩ご飯を食べに行った。
その後は、アルベルトがルーシィの相手をしているうちに手の空いた男手でリザードの家を飾り付けていき、食材はネーシィや一族の他の女性達が請け負った。
「アル、なんかね、皆私に隠し事をしてそうな気がする」
泉の周りに点々とある岩の1つに座ったルーシィが口をすぼめながら不機嫌そうに言った。
「誕生日のことで?」
そんなルーシィの横に立ったアルベルトはルーシィの頭を優しく撫でながら質問した。
「誕生日のことじゃなくて!」
アルベルトを下から不機嫌そうに睨み上げたルーシィは「アルも私に隠し事してる!」とさらに言葉を続けた。
幼いながらに優れた洞察力を持つルーシィに驚いたアルベルトは苦笑いしながらルーシィと同じ岩に腰掛けた。
「気づいてないと思ってた」
否定をしないアルベルトを見たルーシィは戸惑いがちに「教えてくれるの?」と聞いた。
「…今の時点で俺からは何も言えない。でも、誤魔化すこともできない。だってそれがルーシィを傷つけることになるかもしれないから」
意味深な返答だが、真っ直ぐにルーシィの目を見つめながら告げたアルベルトをみてルーシィは自身の手をギュッと握る。
「今の時点でってことはいつか教えてくれるってこと?」
去年のルーシィは駄々をこねるばかりだったが、こうやって真剣に伝えればきちんと受け止められるようになったんだとルーシィの成長を感じたアルベルトは優しく微笑むと頷いた。
「ちゃんと伝える時が来るよ。だから、それまではこれまで通り待っていてあげてよ。4歳になるルーシィは賢くっただろうから俺から伝えられることは何もないかもしれないって分かってて聞いたんでしょ?」
暗い話にならないように最後はおどけた様子で言葉を紡いだアルベルトの優しさに「そうだよね、私もう4歳だから待てるよ!」と返したルーシィは「アルだから思わず言っちゃったんだ」と自分の頭を小突きながらぺろっと舌を出して笑った。
その表情は少しの不安が入り混ざっているようで、それを察したアルベルトは横からぎゅっとルーシィを抱きしめた。
「ルゥ、俺はどんな時もずっとルゥの味方だよ」
その瞬間、綺麗な金色の大きな目がアルベルトの紫がかった深い深い青を見上げるように貫いた。
「アル、大丈夫だよ。正直に答えてくれてありがとう!ママ達が私のことを大切にしてくれてるのわかってるから、何かあるのかなって気になっても聞けなくて。でも、きっとママ達のタイミングがあるんだろうなって思うから今は知らないふりしとくね。だって、日付が変わると私の誕生日だもん!皆が今も私のために動いてくれてるってわかってるから、楽しまないと損だよ。わたし全力で楽しむ!」
花が綻んだようにニコッと笑ったルーシィは両手で力こぶを作った。
それにつられてアルベルトも心から笑った時、ルーシィがアルベルトの耳元で「私もずっとアルの味方だよ。アル大好き。私、将来アルのお嫁さんになるんだ」と満面の笑みで呟いたあと、そのまま耳に唇で口付けた。
「!!!!!?」
一瞬ルーシィの行動を理解できなかったアルベルトもルーシィが岩から降り、家に向かって歩き始めた頃には耳が真っ赤になるほど動揺を隠せず、自分の腕で顔の下半分を隠したまま動かないアルベルトを呼ぶために振り向いたルーシィはそんなアルベルトの様子を見て満足そうに笑った。
その後すぐに平常心を取り戻したアルベルトは「おませ4歳児め」っとぽそっと呟くと、嬉しそうな表情を隠さないまま岩から立ち上がり、ルーシィを追いかけたのだった。