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透明色  作者: 神木駿
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第九話翡翠の色

「葵、起きろ。ついたぞ」

秋人の声で目が覚めた。

「ぐっすりだったな」

「ああ、ごめん。起きてようと思ったんだけど、ダメだったみたい」

「いいよいいよ。俺らもすぐ寝ちゃったし」

「しりとりやろうと思ってたのに電車が気持ちよくてすぐ寝ちゃったよ。秋人にリベンジしたかったな」

「また今度だな」

小桜さんは少しむっとしていた。

「じゃあまたね」

僕と秋人は先に電車を降りる。

「いやぁ楽しかったな」

「うん。楽しかった」

今日の思い出は一生残るだろうなと確信した。だって友達と遊びに行くだけでも僕にとっては一大イベントなのに、漫画みたいな展開も起こったんだ。記憶から消えることは一生ないだろう。

「そういえば旅館の名前はなんて言うんだ?聞くの忘れてた」

「連絡先もらってるから調べてみるよ」

僕は荷物の中から海で渡された紙を取り出し、携帯で調べてみた。

「翡翠館っていうみたい。結構有名なところみたいだよ」

「翡翠館?もしかしてあの翡翠館?」

「あのって?」

僕は首を傾げる。秋人は目を見開いて僕の携帯を覗き見る。

「テレビとかでよく紹介されてて有名人とかも結構行ってるって、葵知らないの?」

「うん、旅館とかあんま行かないし」

秋人がここまで言うのだから相当有名なところなんだろう。改めて漫画みたいな展開だ。

「俺たちめっちゃラッキーだぜ。あの翡翠館に行けるなんて」

こんなにテンションが高いのは珍しいなと思いながら視ていると、いつも以上にキラキラと輝いた色をしている。

「夏の間に行けるといいね」

「ああ、そうだな。桃たちにも言ってまた予定立てないとだしな」

「じゃあみんなの予定聞いてから旅館の方に電話するよ」

僕たちは夏の間にまた旅行に行く予定が出来た。家に着くとすぐに自分の部屋のベットに横たわる。ベットの上でおもむろに携帯を取り出して画面を見ると、小桜さんからメッセージが来ていた。メッセージ画面を開くと、そこには僕と君が肩を寄せ合って寝ている写真と【青春だねー】というメッセージが書いてあった。

いつの間に撮られていたんだ。それならお返しにと僕が電車で撮った写真と一緒に、【そっちもね】というメッセージを添えて小桜さんに返した。

携帯をベットの端に置いた。少しだけ目をつぶって休んでいると不意に携帯が鳴る。

[いつ撮ったのこんなの?!すごい恥ずかしいんだけど!もしかして秋人にも送った?]

[まさか、秋人には送ってないよ。小桜さんもいつの間にあんな写真撮ったの?]

[駅に着く前に私は起きたんだけど、あまりにもいい感じになってたから思わず写真撮っちゃった。それより、さっき送ってきた写真は絶対秋人に見せないでね]

[わかってるよ。こんなの見せたらあいつ倒れちゃうよ]

冗談っぽく言ったが、本当は秋人に見せればちょっとは意識するかななんて考えてた。けど見せるなって言われたらしょうがない。

[わかってるならいいんだけど]

小桜さんはたまに乙女なところを出してくる。

[そういえばさっき僕に送ってきた写真、星月さんにも送った?]

「え?うん。送ったけどなんかまずかった?」

[いや大丈夫、送ったのかなって気になっただけだから]

[ふ~ん、そっか。あっ言い忘れてた。写真ありがと]

[うん。役に立てて良かった]

僕がそうメッセージを送って会話が終わった。僕は小桜さんから送られてきた写真を見返す。君はこの写真を見てどんな色になるのかな、って考えたら胸が少しざわついた。

コンコンとドアをノックする音が聞こえる。

「葵、ごはんあるけど食べるの?」

母さんがドアの向こうで言っていた。今日は少し疲れたからこのまま寝ようと思ってたけど、母さんがせっかく作ってくれたのに、無駄にするのはもったいない。

「ありがとう、食べるよ」

僕は起き上がって、リビングに向かった。母さんが夕飯の準備をする間に話しかけてくる。

「葵、今日は楽しかった?って聞くまでもないわね」

母さんの言い方に疑問を持った僕はなんで?という顔をした。

「だってあなた顔にやけてるよ」

「えっ?!」

僕はスマホの暗い画面で自分の顔を見た。母さんの言う通り口角が少し上がっている。今でこの状態だということは、帰ってくるまでずっとこのままだったということになる。僕は恥ずかしくなった。

「楽しかったみたいで何よりだわ。秋人君の他にもだれかいたの?」

母さんは僕の顔をにやにやとした顔で見ながら話を続ける。

「なんで秋人は入ってるの確定なの」

「そりゃああんたを誘ってくれるのは秋人君ぐらいしかいないでしょ」

母さんにはお見通しのようだった。

「まあそうだけど、秋人の他には女の子が二人だよ」

「あら!女の子だったのね。それで二人のうちのどっちがあんたの彼女なの?」

母さんは手を止めて聞いてきた。女の子と聞いただけで彼女というのは早計過ぎだと思う。

「そういうんじゃないって。友達だよ」

「あら、そうなの?じゃあ彼女になったらうちに呼びなさいね」

「だからそういうんじゃないって」

僕は今日がよっぽど楽しかったのか、母さんが用意してくれたご飯がいつもよりおいしく感じた。

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