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透明色  作者: 神木駿
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第六話桜の色

片づけが終わり教室で帰る準備をしている僕たち。黙々と作業をしていると沈黙を破るドアの音が聞こえてきた。

「おーす、おつかれー」

教室のドアを勢いよく開けて小桜さんが入ってきた。よく見ると後ろに秋人もいる。

「どうしたの?桃」

「二人は帰らないのかなって」

「私たちも今帰ろうとしてたとこだよ」

「お、じゃあ今日もカフェ行く?」

小桜さんが親指を立てて腕を軽く振るしぐさをする。

「ごめん。私、今日は用事あるからすぐ帰らなきゃなんだ」

「えー、残念。でも用事あるんじゃ仕方ないか。」

「うん、ごめんね。また今度」

「じゃあ男子二人におごってもらうついでに秘密の話でも聞くとするか」

小桜さんは僕たちを見てそう言った。

「おいおい俺たちに拒否権はないのかよ。しかも何でおごられるの前提なんだよ」

「いいじゃんちょっとぐらい、決定ね」

「やだよ」

秋人はすごく嫌そうな顔をしているけど、僕は結構楽しみにしていた。友達と寄り道は僕にとっては一大イベント。嫌なことを考えるよりも楽しそうが先に来る。

「まあまあ少しぐらいいじゃん」

二人のやり取りを見ながら僕は言った。

「葵がそういうならいいけど」

「やった、水篠ナイス!」

小桜さんは待ちきれなかったのか先に走って駅に向かった。僕と秋人は歩きでゆっくりとカフェに向かう。カフェに着くと二人は相変わらず甘そうなホイップクリームを乗せたコーヒーを買って、僕はオレンジジュースを買う。

席について早々小桜さんが聞いてきた。

「ぶっちゃけどうなの」

脈絡のない会話の振り方に僕はどう返答すればいいのか分からない。

「何が?」

僕は質問の意図を読み取ることができず聞き返した。

「渚のこと。どう思ってるの?あの子は女子の私から見てもすごいかわいいし、気も使えるし、好きにならないの?」

小桜さんは前のめりになる。恋バナが好きなお年頃になると、友人間でもこういう話を聞きたくなるのだろうか。

「うーん。どうだろう。確かにかわいいし気も使えていい子だと思うよ。けど…」

僕はそう言いかけて慌てて口を閉じた。

「ん?最後の方よく聞こえなかった」

「いや、何でもない。すごくいい子で素敵だと思う。でも恋愛的な話だとよく分からないかな」

僕はそう言って答えをはぐらかした。

「ふーんそっか。水篠って結構謎だから、ちょっとでも何か聞き出せたらなって思ったんだけど」

「聞き出すって弱みでも握ろうとしてるの?」

「いやいやそんなんじゃないよ、ただ謎な部分をちょっと知りたいだけ」

「僕ってそんなに謎なイメージがあるの?」

自分では普通にしてるつもりだけど、周りからはそんなふうに見られてたのか。

「うん。なんか普通に話してるけどあんまり顔に出ないし、考えてることがよく分からないって感じ。秋人はどう思う?水篠って謎な部分多くない?」

「そうか?別にそうでもない気がするけど」

秋人は興味なさそうに言った。昔から僕はこんな感じだから、秋人はあんまり気にしたことはないのだろう。

「そうなの?うーんそんなもんなのかな。あ、気分悪くさせたらごめんね」

「ああいいよ。気にしないで、何考えてるか分からないとはよく言われるから」

「ていうか桃はどうなんだよ。好きな人とかいないのか?」

秋人が話に参加してきた。

「私は…いないこともないけど」

小桜さんはさっきまでの勢いが無くなり、控えめに言葉を発した。

「え?マジ?だれだれ?俺の知ってるやつ?同じクラス?」

秋人がさっきの小桜さんのように前のめりになる。

「誰でもいいでしょ!秋人には関係ないじゃん」

「えー気になるから教えろよ」

オレンジジュースを飲みながら二人のやり取りを見ていたら、小桜さんの色が視えてしまった。普段とは全然違う淡いピンクの色……もしかしてと僕は思い秋人を止めた。

「まあまあ知られたくないことぐらいあるよ」

これ以上深追いさせたら面倒なことになる。

「なんだよ、止めんなよ」

ここは話題を変えなきゃととっさに

「そういう秋人はいないの?好きな子」

と聞いてしまった。後から思ったが話題の変え方を間違えた。

「俺が女子とまともに話せないの知ってるだろ。そんな状態で好きな子なんて出来ねぇよ」

秋人は肩を落とす。

「え?じゃあ何で私とは普通に話せるの。私は女子じゃないって言いたいのか」

小桜さんが少しだけムキになっている。

「ああ……桃は男友達といるみたいで全然平気なんだ。お前ほんとに女子か?」

秋人は小桜さんを挑発するように言った。

「何その言い方なんかむかつく!」

「はは。でもお前が男っぽいのは間違ってないだろ?そんで俺が普通に話せるってことは女子じゃないってことになるんじゃないか?」

秋人は冗談交じりに笑いながら言葉を続ける。

「私もう帰る」

「なんだよ桃。何怒ってんだよ」

笑みをながら秋人は言っていたが、小桜さんは顔を伏せ、荷物を持って店の外に出てしまう。

「お、おい待てよ桃!」

「秋人…さすがにあれはダメだと思う。後でちゃんと謝っときなよ。今日は僕が送っておくから」

僕は秋人を置いて小桜さんを追いかけた。小桜さんが乗ったであろう電車のドアが閉まる前に、ギリギリで滑り込めた。僕は息を切らしながら小桜さんを探した。

「うわ、びっくりした。どうしたの水篠君」

小桜さんはドアの近くで赤くなった目をこすりながら聞いてきた。

「いやちょっとさっきのこと謝りたくて、それにもう暗いからついでに送ってくよ」

「別に怒ってないし。それに外あんまり暗くないじゃん」

追いかける言い訳に使った言葉をいとも簡単に流されてしまった。

「それで、本当はなんで追いかけてきたの?」

「謝りたいのは本当。秋人も悪気があって言ったんじゃないんだよ。あいつ鈍感だから若干空気読めないというか、自分のことになると鈍くなるし。それがいいところでもあるし悪いとこでもあるんだけど」

僕は秋人を擁護するように言った。だけど支離滅裂なことを言っているのが自分でもわかる。大体謝るって言ったのに謝罪をしていないことに僕は気付いていない。

「私も少し熱くなりすぎたと思う」

秋人がいないと小桜さんはすこし素直な言葉を言ってくれた。

「だから、秋人のことは嫌いにならないで欲しいんだ」

「嫌いになんかならないよ。もしかしてそれを言うために追いかけてきたの?」

小桜さんの顔から笑みが零れた。

「うん。それと少し気になることもあったし」

僕の言葉で小桜さんは何かを察したみたいだ。

「あ、もしかして気付いた?」

「あーうん。なんとなく」

「隠してるつもりだったんだけど気付かれちゃったか」

今日のやり取りを見なければ僕でも気づかなかったと思う。小桜さんは男勝りなとこがある。普段は秋人と同じような明るい色しか見えなかったけど、恋愛関係の話になるとちゃんと女の子なんだなと思った。

「さっきも言ったけどあいつ鈍感だから、割とストレートに言わないと気づかないと思うよ」

「そうだよね。ていうかそもそも恋愛対象として見られてないんだけど」

「恋愛対象とかはあんまりよくわかってないんじゃないかな。今まで女子とまともに話したことないから」

僕が見てきた秋人のことを正直に話す。女子との接点が無かった秋人にとっては唯一まともに話せる小桜さんとの関係はかなり進んでいるように見える。

「やっぱり女子として見られてないから私と話せるんだよ」

小桜さんがさらに落ち込んでいく。僕としてはそんなつもりで言ったわけじゃない。

「今はそうかもしれないけどこれからどうなるか分からないから頑張っていこうよ」

僕は小桜さんを励まそうと言葉を絞り出した。

「けど、なんで水篠君は私が秋人のこと好きなの分かったの?」

不思議そうな視線を僕に向ける。

「なんとなくかな。今までのやり取りからそうじゃないかなーって、確信は無かったけどね」

色で視えたなんて言えないから、ごまかしながらそれっぽいことを言った。

「私ってそんなにわかりやすい?」

小桜さんは首を傾げた。正直に言うと分かりやすい。多分色が無くても近いうちに僕も気づいていただろう。それを伝えてもいいものかと迷った僕は無難な返しをした。恋愛事情なんて普通は知られたくないものだろう。

「いや、そんなことないよ。多分気付いてるのは僕だけだと思う」

「そっかーならよかった」

小桜さんは安堵の表情を浮かべる。この子なら秋人ともうまくやってくれると直感した。

「もしよかったら手伝おうか?」

僕の口から自然と声が漏れていた。

「えっ?いいの」

小桜さんは顔を上げて僕を見る。

「うん。小桜さんなら秋人と合いそうだし、すごい仲良くやってくれそうだし」

秋人のやつもそろそろ女の子に免疫つけないと、将来が心配になるしね。

「ありがとう!助かる!」

僕たちの恋愛秘密同盟が結成したところで、小桜さんの降りる森野駅に着いた。改札まで行ったところで小桜さんの表情は明るくなっている。想いを吐き出せるというのはやっぱりいいんだろう。

「ここでいいよ。私の家駅のすぐ近くだから。また明日学校でね」

「うん。気を付けてね」

僕は小桜さんを見送り、反対方向の電車に乗って自分の家に帰る。

秋人から[桃、怒ってなかった?]とメッセージが来た。

[怒ってなかったけど謝っておいた方がいいよ]

僕は秋人の鈍感さに呆れながら携帯の文字をうつ。

次の日秋人と小桜さんがいつも通り仲良く歩いているのを見かけて僕は安心した。二人の色はいつもと同じ明るい色だった。

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