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透明色  作者: 神木駿
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第五話青春の色

次の日、早速体育祭の種目決めをすることになった。体力測定の結果を見ながらクラスのみんなに意見を聞いていくが、クラスのみんなはあまり乗り気ではない。特に長距離走なんて誰も出たがらないし、何なら目も合わせようとしない。

長距離走は三百メートルのグラウンドを五周する競技。距離的にはそこまで多くないが、わざわざ体育祭でやるのは憂鬱だと考えている人が半数以上。どんよりと暗い色で教室が覆われていて、それを視るこっちも気分が落ち込んでくる。

「誰か出てくれる人いない?これ決まらないと終わらないんだけど…」

この時の言葉選びは間違えたとすぐに気づいた。色がさらに暗くなっていく。訂正しようにもいい言葉が浮かんでこない。僕の頭を思考が巡っている間に失敗の結果が追いついてしまった。

「そんなに言うなら水篠が出ればいいんじゃね?」

誰かがそう言った。それに続くようにクラスの色が覆いかぶさってくる。

「そうだよ水篠がやればいいじゃん」

「水篠が出るっていえばこれで終わりになるし」

一番初めに言い返してきたクラスメイトは僕が運動苦手なのを分かっていながら言っているように視えた。さすがに僕も持久走は運動部に勝ち目がないのは分かっていたし、公開処刑になるのが目に見えている。だけど僕の不用意な発言がこうなった原因だし、何よりみんなの色が濁っていく。多分早く帰りたいのだろう。

「分かった、出るよ」

この場は僕が我慢すれば丸く収まる。これ以上色が濁って気分が悪くなるのを嫌がった僕はそう答えてしまった。

「よっしゃー終わりー帰ってもいい?」

座っていたみんなが次々と立ち上がり教室からでていく。僕と君は二人教室に取り残された。

「水篠君運動苦手って言ってた気がするけど大丈夫?」

「あー、うん大丈夫。どうにかなるよ」

僕はそう答えるしかなかった。いまさら何を言ったところで、僕が出るのは変わらない。

体育祭まではあと二週間。ここで漫画やアニメの主人公なら二週間猛特訓して体育祭で優勝だ、なんて結果もついてくるのだろう。あいにく僕はそんなキャラじゃないし、何より現実的に考えて二週間で体力をどうにかするのは無理がある。大変なことを引き受けてしまったといまさらながら思った。

「じゃあ帰ろうか」

僕は張り付けた笑顔を君に見せてそう言った。それから数日は憂鬱な気分が続いた。体育祭自体もそんなに好きなイベントではないし、長距離走なんかはもっと嫌いだ。でも今更どうあがいても僕が出ることは変わらないし腹をくくるしかなかったけど憂鬱な気分が晴れることはなかった。

体育祭当日、順調に競技が進み、いよいよ次が長距離走。

他のクラスは確実に勝ちに来てる。陸上部のエースやサッカー部、野球部とかの運動部ばかりだ。同学年のはずなのにこの場にいることが場違いなんじゃないかと思えてくる。

みんなが次々とスタートラインに立つ。僕もスタートラインに行こうとしたとき、君の声がどこからか聞こえてきた。

「水篠君頑張れー」

声の出所を探す暇はなかったけど、僕は少しだけ力をもらえた気がした。

「バアン」

ピストルの音がグラウンドに響き渡る。

何とか最初の二周はくらいついていたが、運動能力の差と僕のスタミナ不足でどんどんと差が開いていく。僕の後ろにはもう誰もいない。せめて一周差はつけられないようにと頑張った。だけどさすがは運動部、ラストスパートで三人ぐらいに追い越された。

もうあきらめてもいいんじゃないかと、そんな考えが頭をよぎる。どーせ僕に期待なんかしてないだろうし、僕が負けたところでクラスのみんなは気にもしないだろう。足の力が抜けてきた。もういっそ歩いてもいいんじゃないかな。そう思ったとき

「水篠君頑張れー」

「葵、あと少しだぞ」

聞き覚えのある声が僕に向かって飛んでくる。期待なんかされてない。誰も見てないと思ってたけど、見られてるなら頑張るしかないじゃないか。僕は力を振り絞り、何とか最後まで走り切ることが出来た。

ゴールに着いて僕が倒れこんでいると上から三つの顔がのぞき込んできた。

「お疲れ。運動苦手な葵にしてはよく頑張ったじゃん」

「水篠君お疲れ様」

「おつかれー水篠も男出したね」

僕は息が切れすぎていて言葉を返すことが出来なかった。まあ僕も、僕にしては頑張った方じゃないかと思った。途中諦めてしまおうかと思ったのは心のうちに閉まっておく。後でどこかの誰かにこじ開けられそうな気もするが、それはそれで仕方ない。

その後も競技が進んでいき、無事何事もなく体育祭は終わった。クラスのみんなは結果に興味はなくそのまま解散した。実行委員はこの後の片づけがあるから、少し休憩してからまた校庭に集まることになった。

「水篠君今日はお疲れ様」

「星月さんこそ応援ありがと」

持久走の時初めに聞こえた声は間違いなく僕の力になった。

「私ができるのは応援ぐらいだったから」

「力もらえたよ」

僕が笑顔でそう言うと君もうれしそうに笑った。

「実行委員はグラウンドに集合してください。片づけを開始します」

「放送来たね。行こうか」

夕暮れの紅色が校舎を真っ赤に染める。僕と君はグラウンドに向かった。

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