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透明色  作者: 神木駿
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第四話放課後の色

あれから数日後、体育祭の委員を決めることになった。僕はそういうのに興味が無い。やりたい人がやればいいし、誰かがやるだろうとも思って窓の外を見ながらぼーっとしてた。

そしたら希望者が誰もいなくて部活に入っていない人の中から選ぶことになってしまった。

男子の中で部活に入っていないのは僕を含めて三人しかいない。委員決めは公平にじゃんけんで決めることになった。僕はじゃんけんのような運勝負はものすごく弱い。何かを決めるじゃんけんで勝てたためしがないのだ。

僕らは声をそろえて拳を振り上げる。

「じゃんけん、ポン」

「あ…」

案の定僕が一人負けした。

「よし、じゃあ男子は水篠な」

先生が淡々と話を進めていく。女子の方はやりたい人が何人かいるみたい。こんな面倒な係をやりたがるなんて物好きだ。結局女子の方も話し合いでは決まらず、じゃんけんで決めることになった。こっちのじゃんけんは勝ち抜きの方式で男子とは逆だった。

「じゃんけん、ポン」

「あーあ負けちゃった」

「やったあ、勝った」

両手を挙げて喜んでいるのは君だった。

「おお、女子は星月か。確か去年もやってたな今年も頼むぞ」

「はい。頑張ります!」

「水篠はわかんないことあったら星月に教えてもらえよ」

「はーい」

僕は気だるそうに返事をする。正直めんどくさいが、君のことが少しわかるかもしれないと、ポジティブに考えることにした。

放課後、僕は君に誘われた。

「水篠君体育館まで一緒に行こうよ」

特に断る理由もないから僕は君と一緒に体育館へ向かうことにした。

「渚~」

 後ろから元気な声が飛んでくる。

「渚も実行委員会になれたんだね。よかった〜」

「桃もなれたんだね。こっちはやりたい子が多くてじゃんけんになっちゃってできないかと思ったよ」

「えっ、そうだったんだ、こっちは私一人しかいなかったよ」

二人の会話が弾んでいる。仲良しなのかなと少し引いたところで見ていたら、君は気を利かせてくれて話を振ってくれた。

「あっ水篠君ごめんねはしゃいじゃって。この子は小桜桃、私の中学校からの友達なの」

「どーも初めまして桃だよ。よろしく」

この前廊下であった色がはっきり視える子だった。僕にとっては印象的でよく覚えていたが、向こうは僕のことは覚えていなさそうだ。

「水篠葵です。よろしく」

「かたいなーもっとラフにいこうよー」

僕は反応に困り、愛想笑いを返した。まさかこの子が星月さんと友達だったなんて思ってもいなかった。しかも中学からということはそこそこ長い付き合いということになる。

「あ、桃、早く行かないと時間遅れちゃうよ」

「ほんとだ。行こう!」

君たちが僕の前を走る。それにつられた僕も体育館へと急いで行った。

体育館に着くとほとんどのクラスが集まっていた。時間はギリギリだったがまだ過ぎていない。

「じゃあまたね」

小桜さんは自分のクラスの場所に行った。小桜さんは何組なんだろうと目で追っていると、そこに見覚えのある顔があった。

秋人だ。今年も実行委員になったみたいだ。秋人と小桜さんは同じクラスだったのにも驚いた。そこだけ面白いぐらいはっきりと色が視えていて少し笑ってしまった。

委員長の話を聞いていると実行委員の役割はそこまで多くないみたいだ。出る種目の割り振りや体育祭前日の準備などの簡単なものばかり。これぐらいなら僕でもできる。集まりが終わって変える準備をしていると秋人が僕に気付いた。

「葵がこんなのやるなんて珍しいじゃん。どうしたん?」

「部活入ってない人がやることになってじゃんけんで負けた」

「あはは、葵じゃんけん弱いもんな」

「やること少なくて良かったよ」

僕がさっきの説明を聞いてホッとしたことを伝えると秋人から衝撃的なことを聞かされた。

「ん?ああ、やること自体は少ないけど結構大変だよ。クラスの種目決めとか全然決まんなくて何回もやることになるし、最終的には全部丸投げにされて放課後つぶれるとか」

「え、それは聞いてない…」

「それに前日の設営は力仕事で普段運動してない葵にはきついかもな」

「えっ」

僕は思わず声を出してしまった。さっき話していた内容を聞く限り大変そうではなかったけど、経験者からそう聞かされてしまうと説得力がある。僕のさっきまでの気分は吹き飛んでしまい憂鬱な気分になった。

「大丈夫大丈夫、俺もいるから頑張ろうぜ」

嫌な顔をしたのがばれたようだ。実際そんなめんどくさいことはしたくなかった。僕のじゃんけんの弱さをこれほど憎んだことはないだろう。

その時小桜さんが来た。

「渚、委員会も終わったことだしちょっと寄り道して帰ろうよ」

「うんいいよ。あ、水篠君たちも一緒にどう?」

「僕は別にいいけど」

「お、俺も葵が行くなら」

「よし、じゃあ決まり早速行こう」

小桜さんが前を歩き、僕たちはその後ろをついて行った。

僕たちは駅の中にあるカフェに来た。僕はカフェに来るのが初めてだったから、少しドキドキしていた。コーヒーや紅茶は飲めなくはないが苦手だ。こういうおしゃれなところに子供でも飲めそうなジュースはあるだろうかと心配になった。けどそんな心配は杞憂で終わる。子供連れでも楽しめるカフェなだけあってちゃんとジュースも置いてあった。僕は安心してレジでオレンジジュースを頼む。

「あれ?水篠君コーヒーじゃないの?」

僕と同じオレンジジュースを手に持った君が聞いてきた。

「うん、コーヒーとかはちょっと苦手で。そういう星月さんもオレンジジュースなんだね」

「あはは、実は私もコーヒーとか飲めなくて」

星月さんは僕の中で上品なイメージがあったから意外だった。案外子供っぽいところもあるみたいで少しだけ親近感がわいた。

「お待たせ~」

コーヒーの上に甘そうなホイップクリームを乗せた二人が戻ってきた。

「二人で何の話してたの?」

「私も水篠君もコーヒー苦くて飲めないよねーって話してたの」

「うっそマジで?水篠もコーヒー飲めないの?こんなにおいしいのにもったいないねー秋人」

「ああそうだな。このコーヒーの苦さと甘〜いホイップクリームの組み合わせが楽しめないなんてかわいそうに」

僕と君は愛想笑いで返す。そういえば秋人は女子が苦手なはずなのに、小桜さんとは普通に話せている。色も男子と話すときと変わらない。そんなことを考えていると小桜さんは僕と秋人を交互に見る。

「そういえば今更だけど秋人と水篠君は知り合いだったんだね」

「おう、葵とは家が近所で小学校からの友達なんだ。そっちこそ星月さんと仲良さげだな」

秋人も小桜さんと君の関係性について質問する。

「うん、だって私と渚は親友だもん」

小桜さんは君の肩に手を置いた。

「そうなの、中学校で席が隣になったのがきっかけで仲良くなったんだ」

「へえーこんな偶然あるんだな、親友同士が同じクラスでしかも実行委員なんて」

秋人は驚いた表情を浮かべた。

「そうだね偶然が重なりすぎてちょっと怖いよ」

僕がそう言うとみんなは笑ってくれた。

小一時間くらい話して僕らは店の外に出た。

「そうだ。今更だけど水篠君連絡先交換しようよ」

小桜さんの距離の詰め方には驚かされるものがあった。ほぼ初対面の人の連絡先を聞く発想は僕にはなかった。でも断る理由もなかったし、これまでチャンスはあったけどすっかり忘れていたことも同時に思い出した。

「ああ、うん。いいよ。そういえば星月さんのもまだ聞いてなかった、連絡先教えてもらっていい?」

「うん、いいよ」

君はいつもの穏やかな顔を崩さずに首を縦に振った。

「え?二人はまだ交換してなかったの」

小桜さんはキョトンという表情を浮かべた。

「学校でしゃべってるからすっかり忘れてたの」

君は微笑みながらそう言った。

「僕も今小桜さんに連絡先聞かれて気づいたんだ」

「マジか」

小桜さんが真顔でツッコミを入れる。小桜さんの素早いツッコミにみんなで笑った。ちょうど電車が来て僕たちはそれに乗った。電車の中でも小桜さんの素早いツッコミを思い出して時折みんなが笑みを浮かべている。

時間が過ぎるのは早い。僕と秋人が降りる駅まであっという間についてしまった。

「じゃあまた明日学校で」

僕たちは一足先に電車を降りる。秋人と帰り道を少し歩きながら話をした。

「なあ秋人、なんで小桜さんとは普通に話せるんだ?」

「ん?ああ、なんか桃だけはなんか大丈夫なんだよな、なんでか分からないけど」

秋人は不思議そうな顔をした。

「へー、そうなんだ。よかったじゃん、普通に話せる女子友達ができて」

このとき僕の中に一つの仮説が浮かんだ。この仮説は僕じゃなくても思いつく。こいつは小桜さんのことを異性として認識してない可能性があると思った。でもそう言ったら意識して、普通に話せなくなりそうだから言わなかった。せっかくできた異性の友達をなくしちゃかわいそうだ。

「じゃまたな」

「おう」

いつもの分かれ道で僕たちは分かれた。僕にも友達はいるが、どこかに遊びに行ったりするほど仲の良い友達は秋人以外にいない。だから今日みたいなことは新鮮でとても楽しかった。

『今度は僕から誘ってみようかな』

そんなことを考えながら玄関のドアを開けた。

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